これだけ短期間に、マイクロソフトに注目が集まるのは久々のことだ。ここ数年、IT業界、特にコンシューマ向け商品の世界の巨人といえばまずiPhoneとMacを擁するアップルであり、そしてAndroidで世界のスマートフォン市場を牛耳る(しかもYouTube、検索などさまざまなサービスも提供する)グーグルだった。長いことIT業界の主役だったWindows PCは低価格化が止まらず、グローバル市場を分け合うLenovo、hp、DELLといったごく少数のメーカーしかコストダウン競争に勝てない状況にある。こうした流れに、東芝、富士通、パナソニックといった日本でWindows PCを作る電機メーカーは長らく苦しめられてきた。NECのPC事業はLenovoに買収され、ソニーはVAIOを切り離した。

Windows 10の登場でWindowsプラットフォーム全体が活発化し、久しぶりにマイクロソフトがIT業界の主役に返り咲けば、Windows PCやスマートフォンを作る日本の電機メーカーも波に乗れるのだろうか? しかし事態はそう楽観的ではないと筆者は考えている。理由は以下の2つだ。

Windowsスマートフォンが盛り上がるためには、通信キャリアの全面的なバックアップが必須

今回Windows 10 Mobileを搭載したスマートフォンを製造するのは、今回発表されたVAIO、日本エイサー、トリニティの3社に、マウスコンピュータ、FREETEL、サードウェーブデジノスを加えた6社。目下、6社の端末はすべて、SIMロックフリー端末(いわゆる「格安スマホ」)として販売されるとみられる。


Windows 10 Mobile搭載のスマートフォン。写真はマイクロソフトのLumia950(日本未発売)

日本市場でWindowsスマートフォンが販売されるのはこれが初めてというわけではない。2011年にはauがWindows Phone 7搭載の「IS12T」(東芝製)という端末を出したことがあったものの、後継機は登場しなかった。

ポイントはこの文章の主語が「au」というところにある。携帯電話は長らく、通信キャリアが仕様を決め、メーカーに細かく指示を出して端末を製造させ、端末販売は通信キャリアが行うという形を取ってきた。携帯電話を販売するのはあくまでもドコモやau(KDDI)、ソフトバンクといった大手通信キャリア。いくらWindows 10 Mobileを搭載するスマートフォンが増えても、通信キャリアが「自分のところの端末として売ってあげるよ」と言わない限り、目立つところで販売されることはなく、流通する端末の数も増えないのだ。数が見込めないのでは、シャープや富士通といったスマートフォンを製造する日本の大手電機メーカーは当然参入できない。

SIMロックフリー端末は、各社のオンライン販売やスーパー、家電量販店などで販売されているが、一般に通信キャリアのショップで扱われることはない。ドコモもauもソフトバンクも、今は各社「いかにiPhoneを1台でも多く売るか」に苦しんでいる状況だ。iPhoneでもAndroidでもないプラットフォームのWindowsスマートフォンを現状で3社が積極的に売るとは考えづらい。もしどこかのキャリアがWindows 10 Mobileを本気で売る気になるとしても、実現にはしばらく時間がかかるだろう。