スカイアクティブが完成した秘密

――少しずつ組織間の壁がなくなっていったというわけですか。

この7、8年、大きく変わりました。今では組織の壁を越えて、その階層ごとにお互いに話ができていますし、必要な情報はすばやく伝わるようになっています。役員も同じです。週に1回集まって、2時間かけてじっくり話し合っていますよ。そしてお互いに助け合っています。たとえば、生産と購買も積極的に共同作業をしています。購買を支えてくださっているサプライヤーで生産に支障が出たとすれば、すぐに生産の人間がお手伝いにいきます。ようやくそこまで来ました。

各部門長が自分の利害だけでものを言わなくなりました。上の人の承認をもらって初めて他部門に協力する、そんなことはもう必要ない、と、折に触れて言っています。そうした風土を根付かせたいものです。

――スカイアクティブというマツダ独自の技術も、この風土の中で育ってきたというわけですね。完成するまでに、その実現可能性が疑問視された時期もあったように思いますが。

安全性能と燃費・環境性能ははずせません。そのうえでマツダならではの走る歓びを実現する、これがスカイアクティブです。この技術が完成した背景には、マツダの特長である自前主義があります。

どこからか技術を買うのではなく、自分たちの力で製品をつくろうということです。よい面も悪い面もあることを認識したうえで、自主運営を貫いています。技術も生産設備も同じです。あるソフトウェアを開発したあと、気がついてみたらもっとよいソフトウェアが世の中に供給されていたという失敗もありました。

しかし、自分が手を加えることでよりよいものができあがると考えています。たとえば、製造設備に使用する産業用ロボットの場合、マツダは汎用製品を購入します。そしてそれを搬入したトラックの上で引き取り、あとは自分たちで工場建屋に搬入し据えつけ、さらにはソフトウェアを投入します。制御ソフトは多くがマツダの内製です。他の自動車会社でこの例はないと思います。

まぁ、こうするのは、マツダにお金がないからでもありますが。試行錯誤でこうした設備を使いこなしますが、たとえ失敗しても自分でただちに直せるので、稼働率が上がることはあっても下がることはないのです。

こうした運営をしていれば、すべて自前で進化させるので設備の経年劣化はありません。スカイアクティブが完成した秘密がここにもあるのです。

――そうは言っても、すべて自前にすると、それなりに経営資源も必要なのではありませんか。

自前主義で外部委託をしない分、開発などの要員の数は多くなります。これがネックではあります。しかし、同じ生産設備を、車種をまたいで使えるような工夫をすればよいのです。さらには、全車種に展開できる機能を検証して開発したり、車種を問わず顧客に受け入れられる機能や装備を工夫することで、無駄な開発はしなくてすみます。そうすれば、次の開発のための余裕が生まれます。

どんな最新技術も、手頃な価格でなければ受け入れられません。これを守った好例は、スカイアクティブのディーゼルエンジンです。性能を上げればコストも上がる、値段が上がる。これは許されません。最新技術の導入が価格上昇のいい訳にはなりえないのです。価格はお客さまが決めるものということを忘れてはなりません。とはいえ、これが意外と難しいのです。

(前定賢三=撮影)
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