アピールとウソの境界線はどこにあるか
以上のように「頑張っていること」や「人柄」をアピールするのなら、その方向性を間違えることはないだろう。しかし、会社の方針に関わるアピールは、ずれていては意味がないので注意が必要だ。
たとえば、不正会計が露見した東芝。発覚前なら「チャレンジ」する社員が出世しただろう。しかし、現状でそういう社員の出世は難しいはずだ。重用されるのは、コンプライアンスを守り、社会に貢献できるような人材だろう。
そこまで急でなくても、どんな会社も、社の方針は毎年少しずつ変化している。それを察知して、自分の仕事のやり方を変えていくことが重要になる。
では、会社の方針はどのようにつかめばいいのか。会社の方針とは社長など上層部の方針ということになるが、直接本音を聞く機会は少なく、自分の会社でも変化に気づきにくいものだ。そんな場合は、直属の上司の伝聞形の言葉、たとえば「○○部門を強化する方針ということだ」というような、上司のオリジナルの考えではない、言葉に注目したい。会社の方針変化に気づくヒントになる。
ただ悩ましいのは、直属の上司が会社の方針についていけず、ズレが生じている場合だろう。たとえば会社が「これからの営業は組織力だ」と言っているのに、上司は従来通りに「顧客との1対1のコミュニケーションが大事」と考えていたらどうすべきか。そんなときは、サラリーマンが上司を選べない以上、相手によって自分の発言を変えることもやむをえない。ただし「二枚舌だ」と言われないよう、部分的な同意にとどめておくほうがいい。両者は業績を伸ばすという目的は同じで、経路が異なるだけだと割り切るしかない。
もっとも、ウソの中には、NGなウソもある。たとえば、英語は片言しか話せないのに流暢だと偽ったら、外資系企業担当になればバレてしまう。女性のマネジメントには自信があるというので任せたら退職者続出、というケースもある。「前の職場で株式公開の経験がある」とウソをついて入社したが、実際には帳簿すらつけられず、上場どころか数十億円の損失を生じさせたツワモノもいる。会社に損害を与えるようなウソをつくと、出世できないどころかクビになることも覚えておきたい。
1964年生まれ。同志社大学卒業後、リクルート入社。同社で6年間連続トップセールスに輝く。その後「アントレ」初代編集長、事業部長を歴任。2005年より現職。著書に『課長から始める 社内政治の教科書』(ダイヤモンド社)などがある。