監査法人は「だまされた」のか?

今回の東芝の問題は、工事進行基準における損失引当金の計上や、部品取引、在庫評価減の会計処理の問題など、会計上の「評価・判断」が絡む問題だ。会社側の会計処理の評価・判断に関して、監査法人が「適正な処理」と認めるかどうかが重要なのであり、不正な会計処理を行おうとするなら、監査法人の担当者に虚偽の資料を提示したりして「だます」か、監査法人に「見過ごしてもらう」しかない。

その点に関して東芝の役職員がどのように関わっていたのかが重要なのであるが、その点についての言及は極めて不十分なので、結局のところ、「不正会計」の問題の核心がほとんど明らかになっていない。

郷原信郎(ごうはら・のぶお)●弁護士、名城大学教授・コンプライアンス研究センター長

しかも、報告書は、一般論として、監査法人が不適切な会計処理を指摘できなかったことはやむを得ないかのような言い方をしている一方で、監査法人の対応に重大な疑惑を生じさせる事実を断片的に記述している。

米国の原子力事業子会社の発電所の建設受注案件について、新日本監査法人が、「未修正の虚偽表示」(会社が、監査人が適切と考える会計処理とは異なった会計処理を行った場合でも、影響の程度によっては、財務諸表は修正せず、「未修正の虚偽表示」として記載することが許容されるというもの)として処理した件について、「100億円程度であれば未修正の虚偽表示として処理することを許容する旨の(新日本の)発言があった」という東芝CFOの供述を記載している。「新日本監査法人は、かかる発言があった事実を明確に否定している」とは述べているが、東芝側が、監査法人側が損失先送りを認めるかのような発言をした、と説明しているとすれば、それ自体が監査法人に重大な疑念を生じさせることになる。

「パソコン事業における部品取引」の問題については、当該会計処理方法を悪用して見かけ上の当期利益を嵩上げしていたことが指摘され、報告書末尾に、毎期末月に損益が異常に良くなっていることを示すグラフが資料として添付されている。これを見ると、監査法人が不正に気付かないことはあり得ないように思える。実際に、監査法人に対してどのような説明や資料提示が行われていたかについては触れられていないので、そのグラフが添付されていることによって、監査法人に対する疑念が生じる。

このように断片的に監査法人に関わる問題が指摘されていることで、監査法人の会計監査に対する疑念が一層深まり、今後も、同じ監査法人に会計監査人を務めさせて良いのか否かすらわからない事態になっているのである。