「苦手だと思うのは、はじめに数字ありきの発想があるからです。統計などを基にしたグラフや表を集め、それを分析したうえで説得しようとするからつまらなくなる。数字を言葉に置き換えることはもちろん大事ですが、言葉を数字に置き換えることもそれ以上に重要。その発想の転換で、数字は聞く側の興味をそそる『活きた』ものになっていきます」

先駆的なシステム開発で注目されるアイズファクトリー社長の大場智康氏もこう語っている。「大切なのは数字『を』語ることではなく、数字『で』語ること」(プレジデント誌2013年12月2日号)

鈴木氏の講義では、その感覚を身につけるため、経営とは関係がない数字に関連する課題を出すことがある。たとえば「愛の値段はいくら?」というものだ。

物語があれば数字は面白くなる

「愛」という言葉で受ける感覚は人それぞれだろう。愛に値段はつけられないという人がいるかもしれないが、それでは回答にならない。愛する相手へのプレゼント代ということも考えられるが、これも単純すぎる。ここでは「愛」という抽象的な概念を具体的な値段に置き換えて回答することが求められるのだ。

メディアではよく独身女性が結婚相手に望む年収の調査結果が取り上げられるが、これも愛の値段ではない。年収1億円あれば愛がなくても結婚する女性はいるだろうし、200万でもいいという人もいる。

鈴木氏が回答例として取り上げたのはアクサ生命が調査したデータを基にしたレポート。働く女性(25~44歳)が男性に求める年収を問うて出た平均額は552万円。アクサ生命の調査はこれにとどまらず、「心から愛せる相手が現れたとして、その年収がいくらなら結婚できますか?」というデータも集めた。その平均は270万円。つまり552万円から270万円を引いた282万円を「愛」の値段と解釈するわけだ。

「これがベストの回答というわけではなく、多様な回答があっていい。ただ、ここで私が言いたいのは、こうしたストーリーラインで数字をとらえる感覚が大事だということです。ストーリーがあれば数字は面白くなりますし、説得力のある話もできるわけです」