コミュニケーションとしての数字の強み・特徴を知っている名経営者は、話すときも上手に数字を駆使している。具体性、翻訳、比較……名経営者のテクニックを学ぼう。
数字の醍醐味は比較にあり
グロービス経営大学院の東京校で論理思考系科目を担当する鈴木健一氏によれば、数字を使ったロジックに欠かせないのは、なによりも「比較」だという。
「人間は常に比較をして生きています。目に入るものも大きいか小さいか、美しいか美しくないか。何かを選択するときも、どちらを選べば自分にとって有利か不利か、損か得か。逆にいえば比較をしないと意味の抽出ができない。この比較を端的に行えるのが数字なのです」
繰り返すが、数字はコミュニケーションの手段。なにより相手に明確に伝わるようにする工夫が必要だ。
「たとえば、日本に歯科医院が約7万あるそうですが、7万という数字だけでは多いのか少ないのかがわりません。でも、ここにコンビニの店舗数が約5万であるという比較材料を加えると、どのくらいの数であるかが即座に感覚として理解できるわけです」
数字を提示しただけでは相手にその意味が通じないこともある。そこで誰もが日常的に見たり利用したりしているものを比較対象として提示する。共通認識が持てるスケールを上手に利用するのだ。
実際、コンビニはほかのスケールとしても使えるという。
「コンビニの店舗面積は大体100平方メートル。広さを説明するときに『コンビニが2軒分の広さ』などと表現すれば誰もがイメージできるわけです。また、コンビニの1日の平均売り上げは50万~70万円。多くの人が利用していて、どのくらいのお客が入っているか想像できますから、売り上げの基準としても使いやすい」
ほかにも金額や大きさ、重さ、速さなどを説明する尺度になるものはある。だが、それは多くの人がイメージできるものでなければ伝わらない。東京ドーム何個ぶん、地球と月を何往復という常套句も悪くはないが、もっと伝わる表現はないか見つけ出すセンスも、数字力を高めるうえでは必要だ。