経営再建中のシャープは7月、希望退職を募集した。その一方で、たとえ経営が悪化してもリストラとは無縁の職種も存在する。生・損保会社や信託銀行で働く「アクチュアリー(数理人)」と呼ばれる人たちだ。資格の取得には高度の数学の知識が要求され、最低でも10年はかかる超難関資格だ。『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著 プレジデント社)より、「雇用&リストラ」最新事情をお届けする。
「アクチュアリー」はサンクチュアリー?
部署や役職に関係のない“例外なきリストラ”が横行していますが、たとえ経営が悪化してもリストラとは無縁の"職種"もあります。生・損保会社や信託銀行で働く「アクチュアリー」(数理人)と呼ばれる人たちです。
保険商品の開発に当たって様々なデータを分析して発生リスクを予測し、保険料率を算定する業務、あるいは将来の保険金を支払うための積立金の算定。信託銀行では受託企業の退職金債務の計算を担当します。資格の取得には高度の数学の知識が要求され、最低でも10年はかかるという超難関資格です。
これまで損害保険会社や信託銀行が相次いで合併し、リストラも実施されましたが、大手転職会社の人材コンサルタントは数理人がリストラされたという話は聞いたことがないと言います。
「大手生保や損保会社は30~40人、合併した信託銀行には100人近くの数理人がいますが、リストラの対象になったのは営業部隊や人事、総務などの間接部門です。それほど会社にとって貴重な存在であり、無傷のまま合併会社に移ったか、高給で外資系金融に転職した人もいますし、転職市場でも売り手市場の職種です」
また、数理人は会社の年金債務や決算書類をいち早く分析し、役員よりも先に会社の根幹の情報を知る立場にあります。「同じ会社の数理人が3人も同時に退職すれば、その会社は危ないかもしれないと転職業界で噂になる」(人材コンサルタント)そうです。
気になる数理人の年収ですが、一般的に高いとされる金融機関の同じ年代の社員より1割程度高いと語るのは損保会社の人事課長です。
「アクチュアリーの資格を取るには1次(5科目)と2次(2科目)をクリアする必要があります。1科目以上合格者に毎月5万円、1次合格者に10万円、2次合格者に20万円支給しています。30歳の1次合格者で年収800万円。40歳の資格取得者は1400万~1500万円ぐらいです」
高給に加えてもう1つのメリットは、本社業務であり転勤がないことです。自分は無理だとしても、わが子だけでも大学の数学科に入れて、就いてほしい職種でもあります。
※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。