自己を犠牲にし、約束は守る

では、信頼を得るにはどうすればいいのか。私の考えを言えば、その基本は、誠実さと言行一致。この2つに尽きます。

例えば、ある商品の相場が暴騰したとしましょう。それでも相手は値上げをしないで同じ値段で売ってくれた。それなら今度は逆に、相場が暴落したとしても、値下げは要求しないで高い値段でも引き取る。一時的に会社は損をするかもしれませんが、上司から怒られて左遷されようと、自己を犠牲にして約束を守ったことが相手に伝わる。こういう仕事関係があって初めて、本当の信頼関係が築かれるものです。これは、利益のことばかり考えていてはできないことです。自己を犠牲にするどころか、相手が悪いからとか、相手のせいにする人は信頼されません。

私の場合、入社2年目で知り合い、ほぼ私と同時期に有名会社の社長になった方と、その方が5年前に亡くなるまでずっと親しくしていました。彼は、「君がいる限り、君の会社との取引は絶対に減らさない」と明言して、それを実行してくれた。そういった信頼で結ばれた人たちとの関係を改めて振り返ると、信頼関係を続けるには、一時的な利益に振り回されず、自分を犠牲にしてでも相手との約束を守ることが大切だということがわかります。これは一見、簡単なように聞こえるかもしれません。しかし、自分の社会的な立場が上がり、守るべきものが増えるほど、実際には難しくなるのです。

相手との信頼関係よりも、自分の都合や論理を優先しなければならなくなったとき、陥りがちなのが、「丁寧に説明すればわかってもらえる」というような考え方です。しかし、これは間違いです。いったん信頼にヒビが入ると、いくら説明しても、言い訳をすればするほど、自分が信頼を打ち壊したという“確信犯”になる。しかも、会社の会長、社長や国のリーダーなどトップに立つ人は私人でなく公人であり、その発言は「ファイナル・ワン」。つまり、後で「あれはこういう意味だった」とか「個人的な意見」などといくら説明しても取り消すことはできません。

政治の話になりますが、2013年暮れの安倍晋三首相の靖国神社参拝にしてもそうです。米オバマ政権が「非常に失望した」と表明したわけですから、少なくともブッシュ政権時代の米国と信頼関係があった小泉純一郎首相の参拝のときとは国際環境の条件が違うわけです。日中関係も、これ以上関係が悪化すれば、いくら“政凍経温”といわれていても、日本の経済発展にも悪い影響を与えかねない。14億人の市場を無視できるならいいですが、ドイツ、韓国、米国などは漁夫の利(?)を得て自動車などで攻勢をかけようとしてくるでしょう。まずは日中両首脳が原点に戻って、「お互い武力での争いはやめましょう」と、40年前の田中角栄首相と周恩来首相の日中共同声明の精神を確認することから始めるべきです。いったん信頼にヒビが入ったら、「私はそんな人間ではありません」といくら説明しても、いくらお土産を持っていっても、あるいはお金を出しても、信頼関係はそう簡単に取り戻せるものではないことを日中両首脳は自覚すべきでしょう。

(福田俊之=構成 的野弘路=撮影 Getty Images=写真)
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