そのほかにも数多くあるだろう。いわば大震災という外的ショックによって、11年3月11日から私たちは、これまでの「常識」を疑うことを余儀なくされ、その中で、もがき苦しみながら、新たな日本の方向性を考えてみなければならない時代に入ってしまったともいえよう。ポイントはこれを好機と見るか、危機と見るか、である。

私はそのこと自体は決して悪いことではないと考える。なぜならば、これは経営学的には「パラダイム・シフト」のきっかけとなるからである。

あまり知られていないが、いまではほぼ日常語になっている「パラダイム・シフト」という概念は、トマス・クーン(1922~96)という科学史家が、科学における大きな革命(例えば、ニュートン物理学から、アインシュタイン物理学への革命)を説明するために導入した概念である。

クーンによれば、パラダイムの変革は、現実にそぐわない証拠の積み重ねで起こるのではなく、なんらかの大きな変化によって、大きな思考の枠組み自体が革命的に変化してはじめて起こるのであり、この大きな枠組みの変化は、必ずしも内部からの改革だけではなく、外からの大きなショックによってもたらされることも多いとされる。

東日本大震災は日本の経営と社会をつくり直すきっかけ

いま、起こりつつあるパラダイム・シフト
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いま、起こりつつあるパラダイム・シフト

クーン以前、科学史においては、考え方の大きな変革が実証の積み重ねで起こるという、いわゆる実証主義的な考え方が優勢だった。

それに対してクーンは、古いパラダイムからの転換は、対立する証拠の積み重ねではなく、外的ショックなどで起こる認識の枠組みの変化が先にきて、そのあとで、以前の古いパラダイムと適合的でない証拠が再解釈されるのだと主張した。

具体的に言えば、例えば、ニュートン物理学(古典物理学)からアインシュタイン物理学(相対性理論)への転換は、実験結果の積み重ねで起こったのではなく、アインシュタインによる相対性理論の登場によって一気に引き起こされた変革だというのである。それまでの実証主義的な考え方に対しての、大きな反論だった。