着地点のない、匿名セッション

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

具体的な議論をする前に、まずはこの会社の全社総会にて、匿名のチャットシステムで自由にコメントできるセッションを行わせてもらいました。壇上に社長一人で出てきてもらい、まさに「祭り上げ」の状態で、社員全員が携帯から好き放題にコメントを書き込む。NGワードもありません。

ここで一つ重視したことは、議論の着地点をつくらない、ということです。このセッションの目的は、とりあえず「ゆるめる」こと。

僕たちは、意見や発言を求められると、その正当性や妥当性をいちいち考えてしまいます。こんなこと言ってバカにされないだろうか? 上司に低い評価をされないだろうか? 発言する以上は、なにか明確な意図や着地点がなければいけないんじゃないか? そんなことを考えるうちに、だったら何も言わないほうが懸命だと判断して、沈黙をつくります。

それでも、「なんとなく」言いたいことはある。一人ひとりが考えていることはぼんやりとしていて不完全であっても、それが何人かで共有されれば、ちょっとした考察やコンセプトに発展することもよくあります。議論とは本来、手段のはずです。最初はグダグダでもボロボロでも、そこから何かが次に進めばいい。“いい発言”や“いい議論”を目的化しても意味はないと思うのですが、どうしてもそこに陥ってしまう。

だから、まずは発散しないといけない。

着地点のない「ゆるい」セッションは、多少の戸惑いは生じつつも、なだれを打つようにコメントが投稿され続けました。