内部に人材はいなかったのか。田邊耕二社長は「部品業界は日本のメーカーを相手にすればよく、英語の達者な人間が少ない。海外の営業ができる人間がうちにはいなかった」と語る。しかし、もし内部にいなければ、外部のヘッドハンティング会社を使って採用する方法もある。
外資系人事コンサルティング会社のエーオンヒューイットジャパン会長の大滝令嗣は、「欧米企業では社長公募はまずありえない。欧米の人たちから見ると、会社の恥をさらしているように受け止められるだろう。そんなところに優秀な人材が手を挙げるはずがない」と指摘する。
田邊も、ヘッドハンティング会社を使ったことがないわけではない。過去に何人も経営幹部に招いたが「大体9割以上が使いものにならなかった」(田邊)という。
もう1つ、社長公募に踏み切る遠因となった苦い教訓もある。06年、健康に不安を抱えていた田邊は自分の後任探しを条件に投資ファンドのRHJインターナショナル(旧リップルウッドHD)から20%の出資を受け入れた。
RHJは新社長として傘下の旧日産系列の部品会社の元社長を派遣し、田邊は最高顧問に退いた。ところが、新社長は傘下の部品会社との経営統合を画策、旧経営陣が反発し、解任に追い込んだ経緯がある。田邊はこの”事件”で外部に後継者探しを依頼することに懲りたという。
「RHJは彼について部品会社を黒字にした救世主と言っていましたが、じつは会社が赤字に陥っていたのに嘘をついていたのです。結局、人から紹介されるよりも、公明正大に公募で選んだほうがいいということです」
田邊にとっては苦労の揚げ句、いわば最後に選択したのが社長公募だったのだ。