通り過ぎる場所から、賑わいの拠点へ。「駅」の役割が大きく変化するなかで、「駅ナカ」にはどんな店を展開するべきか。鉄道マンたちが衝撃を受けた「近くて便利」という店づくりとは――。

改札前の超一等地で「ワイン」を売る理由

セブン-イレブンの「駅ナカ」への進出が加速している。

昨年7月9日、セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長はJR四国との業務提携を発表した記者会見で、同年6月にオープンしたJR西日本・岡山駅構内の店舗が「日本一の来店客数」になったと語った。

本来、同社は各店舗の来店者数や売り上げを公表していない。JR四国のキヨスクなど36店舗をセブン-イレブンに切り替えるという発表の場、こうしたリップサービスが飛び出したのは、彼らの「駅ナカ」への期待の大きさの表れだといえた。

同社の西日本での店舗数はローソンを抜きトップに立ったが、JR西日本にとっても自社の地域で展開を進めるセブン-イレブンとの提携は、駅の魅力を高める効果を期待できる選択だった。今後、両社は約500あるハートイン(JR西日本の子会社が運営するコンビニ)やキヨスクを順次、転換していく予定だ。

セブン-イレブン ハートイン岡山駅中央改札口店の店長・藤原浩実さん。2003年ジェイアールサービスネット岡山に入社。14年6月より現職。約2カ月間の入念な準備を経て提携1号店を開業。

岡山駅の中央改札口の横にセブン-イレブンが出店したのは昨年6月4日のことだった。その日、JR西日本は岡山駅のほかに博多駅、京都駅などのハートイン、キヨスク合わせて5店をセブン-イレブンに転換。開店前にはお客の行列ができた。

「どんどんお客様が来て、5台のレジが終日フル稼働でした」

そう当時を振り返る「セブン-イレブン ハートイン岡山駅中央改札口店」の店長・藤原浩実さんは、それから1カ月、2カ月と時間が経ってなお客足が衰えなかったことに、「セブン-イレブン」というブランドの力を感じたという。

1日に12万人が利用する岡山駅の店舗は、ハートイン時代から朝夕の2度のラッシュ時に来店者数のピークがあった。この時間帯には改札を出た人が店に吸い込まれるように入っていくのだが、「そのピークの数が増えた」と藤原さんは話す。

「以前はお客様が増える時間帯は朝と18時頃の1度ずつだけでした。なので、夜になるとおにぎりやサンドイッチも売り切れて、棚が寂しくなっていたものです。ところが、セブン-イレブンになってからは夕方以降だけで3回、たとえば終電のラッシュ時にも同じ光景が毎日繰り広げられるようになったんです」

売れるのは弁当や夕飯の惣菜やサラダ。加えてシュークリームやプリンといったスイーツを買い求める女性客も多い。夕方には学生の姿も目立つようになり、新たに陳列された冷凍食品をカゴでまとめ買いするお客もいる。JR西日本によると、来客数は1日当たり約5000人、以前の1.5倍の数字だという。