「こんな実験があります。ある人の写真を2つのグループに見せました。1つのグループには『この人はBaker(ベイカー)さんです』、もう1つのグループには『この人はbaker(パン屋)です』と紹介。後によく覚えていたのはパン屋として紹介したグループでした。これは同じ単語でも、固有名詞の意味記憶で覚えるより、パンの匂いや味などの経験と結びつくエピソード記憶で覚えたほうが記憶に入りやすいことを示しています。つまり記憶箱の入り口を広げるには、物事をエピソードとしてとらえて、そのときの感情と一緒に覚えればいいのです」

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一方を固有名詞のベイカーさん、もう1人をパン屋(ベイカー)として紹介すると、職業としてベイカーさんを紹介されたグループのほうが記憶している人が多いという結果に。単体で覚えようとするよりもたくさんのタグをつけたほうが覚えやすいという実験例。(PIXTA=写真)

一方、医学博士で作家の米山公啓先生は、「記憶は興味の強さしだい」と解説する。

「あたりまえですが、自分が興味を持っていることは覚えやすいし、嫌だと思えば覚えにくい。忘れっぽい人は、その対象に関心を持つことから始めるべき。たとえば書類をどこに置いたのか忘れやすい人は、『ここに置きました』といちいち口に出してみましょう。それだけで覚えやすくなります。また、場所と結びつけるのもいい。医者は1人で入院患者を何人も受け持ちます。それを頭の中だけで覚えるのは難しいので、私は『あの部屋の窓際にいるのは○○さん』というように空間でタグづけして覚えていました。場所の記憶は鮮烈に残るので、上手に活用してほしいですね」

中野信子(なかの・のぶこ)
医学博士、東日本国際大学客員教授
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2010年までフランスCEAサクレー研究所勤務。
 
米山公啓(よねやま・きみひろ)
医学博士、作家
聖マリアンナ医科大学で自律神経機能の評価や老人医療・認知症問題などに取り組んだ後、1998年退職。現在、米山病院で診療をしつつ、著作活動、テレビ出演などで活躍。
(加納真男也=撮影 PIXTA=写真)
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