脳科学は日々、発展している。しかし、脳と時間の関係は、いまだにはっきりしていない。東京医科歯科大学脳統合機能研究センターの泰羅雅登先生は言う。
「脳の中で時間がどうとらえられているか、まだよくわかっていません。数秒レベルなら、時間が感覚としてセットされているという説もあります。5秒数えてストップウオッチを押してもらうと、それほど誤差なく押せますからね。ただ、数十分とか1時間単位になると、脳は時間をとらえきれなくなります。集中すると時間が早く過ぎる気がしますが、おそらくこれは脳が絶対的に時間をカウントできていないからです」
脳と時間の関係は、いまだベールに包まれている。ただ、私たちの行動や心理と脳の関係については、それなりに解明が進んでいる。たとえば仕事があるのに誘惑に負けて、ほかのことをしてみたり、嫌な気分を引きずって仕事に集中できない状態も、最新の脳科学で説明できる。脳と時間の関係が直接わからなくても、グズ、ノロマは脳科学の観点で分析できるのだ。
いまやスピードは、ビジネススキルの1つ。仕事を早く、そして速く処理するヒントを、第一線で活躍する脳科学者3人に聞いた。
朝早く起きて、出社前にひと仕事終わらせたり、勉強会をしたりする“朝活”が流行っている。朝のほうが脳の働きがよく仕事の効率もいいという印象があるが、はたして本当なのか。
朝時間を積極的に活用したほうがいい、というのは、中野信子先生だ。
「朝に目覚めるときにはノルアドレナリンという物資が出ています。ノルアドレナリンは戦うための物質で、血糖値や心拍などを上げて、闘争できるように体を整えてくれます。これが出ているときは、やる気も高い。だから朝は、ちょっとたまっている嫌な仕事を片づけるのにぴったりです。ノルアドレナリンの効果があるのは、目覚めてから3時間くらいまで。その間にハードルの高い仕事にチャレンジしてください」
朝にやる気が出やすいといっても、早起きが苦手な人は多いはず。そういう人は、前日から準備すれば、翌朝すっきり目覚めることができる。
「朝早くすっきり目覚めるには、夜更かしせずに早めに寝ることが大事です。その鍵を握るのは、睡眠物質メラトニン。これが多いと眠りにつきやすくなりますが、メラトニンは朝に光刺激を受けて15時間後から増えてきます。早起きのためには、まず前日の朝にきちんと光を浴びて、メラトニンを増やすサイクルをつくることが大切。それが夜の眠たさを誘い、いい睡眠を得ることができ、翌朝の気持ちいい目覚めにつながっていきます」