リングサイド席は4000万円!

もはやアメリカのスポーツビジネスはPPVの収入の上に成り立っている。今回、メイウェザーが38歳、パッキャオは36歳。ピークを過ぎた二人にとっては、「最後のビッグビジネス」だったに違いない。

ついでにいえば、PPVとスポーツ・カジノの賭けは無関係ではあるまい。カネをボクシングに賭けると人はどうしても熱くなり、PPVの視聴契約に拍車をかけることにもなるのだろう。

余談ながら、何度かラスベガスの世界戦を取材したことがある。とくに1997年のタイソン対イベンダー・ホリフィールドは異様な雰囲気だった。3回途中、タイソンが相手の耳を噛みちぎり反則負けに終わったのだが、試合後、会場のホテルで銃の発砲事件が起きたのも、タイソンに賭けた男の怒りが原因だったといわれている。

今回、ネバダ州内だけの賭け金は6000万ドル(約72億円)に達したと報道されている。ネバダ州の住民らが試合後、パッキャオ陣営に対し、右肩の負傷を隠してリングに上がったために損害を被ったとして集団訴訟を起こしたのも、ボクシングが賭けの対象となっていることとも関係しているだろう。

結局、今回のPPV購入件数は過去最高だった2007年のデ・ラ・ホーヤ対メイウェザーの248万件を大幅に更新することになった。リングサイドの席は4000万円まで跳ね上がったといわれ、入場料収益が7200万ドル(約86億円)、プラス、各国への放送権料、スポンサー収益、公式グッズ収益とどんでもない大金が動いたのである。

ファイトマネーはメイウェザーが2億4000万ドル(約288億円)、パッキャオは1億6000万ドル(約192億円)ともいわれる。

翻って、日本のスポーツビジネスをみれば、放送権料やスポンサー料は頭打ちである。ボクサーのファイトマネーもテレビ放送権料頼みなら、たかがしれている。ボクシング関係者によれば、日本での世界戦のファイトマネーの相場は1000万円~5000万円。金額の劇的変化を求めるのであれば、PPVのごとき有料放送の普及しかないのかもしれない。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年春より、早稲田大学大学院に進学予定。
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