ヘソクリを含むタンス預金が約44兆円あると言われる日本。配偶者にこっそり派、家族公認派がいるが、ヘソクリを通じて現代のリアルな夫婦の姿が浮かび上がった。
夫が妻に収入のすべてを預け、妻が家計を管理している世帯の場合、夫は月々定額の小遣いをもらって昼食代や夜の付き合い費などに充てることになるだろう。ヘソクリしたい妻にとって、これほど都合のいいシステムはないはずだが、明治大学政治経済学部准教授でエコノミストの飯田泰之氏によれば、この方式はむしろ妻のヘソクリ額を増やすのを妨げる可能性が高いというのだ。
どういうことか。飯田氏は、地主や領主が農民から小作料を徴収する小作制度を例にこのように語る。
「歴史的にみて小作制度には主に3つの種類があります。(1)は農奴制。これは領主が農民の稼ぎや収穫のすべてを奪い取り、農民に食うに困らない程度の少額の“固定給”を与える方式です。字のごとく、農民は奴隷のようにコキ使われるだけです。
(2)は、領主が収穫物の一定の割合を徴収する、分益小作制。取り分を領主50%、農民50%といった比率で決めます。農民が貧困で確実に小作料を支払う能力を持たないためにあらかじめ定額の小作料を設定できず、地主が種子や役畜の一部を提供する場合も見られます。分益小作制は農奴制よりはましですが、農民には厳しい条件となります。
最後の(3)は、定額小作制です。これは、領主が定額の貨幣または一定量の生産物を徴収するというもの。この場合、農民は地代だけを納めれば、残りは自分自身の儲けになります」
さて、これらがヘソクリとどう関係するのか。実は、(1)~(3)の制度のなかで、もっとも収穫量が多くなるのは(3)。次いで(2)、最低は(1)だった。
「努力をすれば収穫物も増え、実入りも増える。つまり、それなりのリターンがあるほうが人はより頑張って働くし、工夫して作業するということです。逆に言えば、一生懸命やっても自分にメリットがなければ、人は怠けるということ。要するに私が言いたいのは、妻は夫を農奴にしてはいけないということです。夫自身が成果をあげた分、例えば賞与や残業代は夫の取り分にすれば労働のインセンティブが上がり、仕事のモチベーションもアップします。すると自然と家庭の総収入も増え、妻がヘソクリに回せる額も最終的には多くなるはずです」