勝木来幸(明治大学ラグビー部主将)
緊張感が満ちる試合前の秩父宮ラグビー場のロッカー室。大学ラグビーの名門、明治大学の勝木来幸主将はこう、声を張り上げた。
「負けて学ぶものはもう、ない!」
21日の日曜日。ラグビーの全国大学選手権セカンドステージの明大×大東大のことだった。明大が41-29で勝ち、2連勝で勝ち点を12に伸ばした。試合後、勝木主将は説明した。
「もう勝つしかないぞという檄でした。負けたら終わりです。相手もシーズン終わりがかかっているので、最後まであきらめませんでした。でも、勝って、こっちも、必死さの大事さを学んだ。いかに流れが悪くても、我慢して、どう、こちらの流れに持っていくのかが次の試合のカギになります」
ずっと明大の紫紺のジャージィに憧れていた。ラグビーのフロントローとして活躍していた父の影響を受け、京都・西京極中から楕円球を追いかけ始めた。ある日、知人の紹介で、焼き肉屋に連れて行ってもらったのが、中学の先輩でもあるフッカー上野隆太(当時・明大、現トヨタ自動車)だった。
その時もらった明大主将の名刺が宝物となった。キラキラと輝いていた。「すごくカッコいいなあ」と思ったという。
高校は大阪・常翔学園(前・大阪工業大学付属高校)に進み、念願通り、明大に入学した。ポジションはフッカーからプロップ(支柱)となった。文字通り、スクラムの柱となって、チームを支える。
しかも、4年生では主将となった。輝かしい明大の歴史をひしひしと感じている。
「もちろん、すごい重圧は感じています。でも、それだけ名誉なことですから、誇りを持って、務めさせてもらっています」
背番号が「1」。176cm、110kg。相撲取りのようなふっくらとした顔、どうしてもやわらかい印象を与える。でも、どっこい、意志の強さはハンパではない。
主将になったあと、まずは挨拶、掃除など生活面から規律を徹底してきた。人間性とラグビーは相関関係にあると知っているからだ。態度、謙虚さ、ひたむきさが、どうしてもプレーに表れるのである。
部員たちに「自律」と「自覚」が芽生えてきた。だからだろう、明大に『王者復活』の兆しが見えてきた。次は、準決勝進出をかけた筑波大戦(27日)。「絶対、負けられない」と、勝木主将はコトバに力を込めた。
「メイジといえば、FWが看板なので、そこで前に出れば、チームも乗ってくる。今日とは別のチームになります。メンバーの意味ではなく、チームの集中力、気迫をガラリと変えて、もっとFWを前面に出していきたい」
好きなコトバが、「後悔はしない」と言う。剣豪、宮本武蔵の「我、事において後悔せず」と同じである。22歳が言う。
「そりゃ、反省はしますよ。反省はするんですけど、絶対に後悔はしたくない。だから、毎日、全力なんです」
明大卒業後は、故郷関西の神戸製鋼に進む。スクラムをこつこつと組み、ラグビー界の王道を堂々と歩む。名前のごとく、いずれ幸せが来るのだろう。