これは「逆オイルショック」ではない

アメリカ人がターキーを食べながら感謝祭の休日を楽しんでいた11月27日(木)、第166回OPEC総会がウィーンで開催された。総会は5時間で終了したが、懸案の生産枠については「1日当たり3000万バレルの現状維持」ということで最終合意となった。「価格下落を食い止めるための減産はしない」と決めたのだ。

市場はすぐに反応し、欧州の基準原油であるブレント原油も、米国の基準原油であるWTIも、それぞれ70ドル台、65ドル台に下落した。その後、各種機関が来年度の需要予測数値を引き下げたこともあり続落し、12月12日(金)の終値はICEブレント原油61.92ドル、NYMEXのWTI57.81ドルと5年数カ月振りに安値を更新した。今年6月からすでに40%以上となっているこの下落の勢いがどこで止まるのか、予断を許さない。

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生産枠と価格

グラフにあるように、OPECは過去の総会で何回か減産を合意し、市況を回復させたことがある。だからこそ、今回も減産決定により市況持ち合わせに動くのでは、との期待が一部にはあったのだ。

なお、OPECバスケット価格は2014年半ばまでは105ドル前後で推移したが、その後急落し、10月平均85.06ドル、11月平均75.57ドル、12月12日(金)には58.65ドルまで下落している。OPEC加盟国の代表原油平均値であるこのバスケット価格は、ブレントとWTIの中間で動いているようだ。

この急激な価格下落状況を見て、「逆オイルショック」だ、という人もいる。その人は、おそらく「逆オイルショック」を経験していない。経験した筆者に言わせれば、これは「逆オイルショック」ではない。「逆オイルショック」ならば、「ショック」でなければならない。「ショック」とは、初めての事態にどう対処していいか分からず、右往左往すること。パニックに陥ること。そういう現象を指す。

だが、今回の事態で、誰もショックを受けていない。消費者は喜んでいる。日米欧の企業経営者も喜んでいる。非産油国の発展途上国も一息ついている。不意打ち解散で今回の総選挙大勝利を収めた安倍政権にとっては、原油価格の大幅下落はまさに時の運、神風であった。