OPECの「シェール革命潰し」?
OPEC各国は、自分たちが全会一致で決めたことだから、「ショック」のはずがない。非OPECの代表格、世界第二位の原油生産国であるロシアは、「困っている」だろうが「ショック」ではないだろう。油価下落は初めてではないからだ。だが、ウクライナ問題で欧米から受けている経済制裁に加えての油価下落は、国家財政にとってダブルパンチであるのは間違いがない。
「今回のOPECの生産枠維持は、シェール潰しだ」との指摘がある。OPECは、非在来型のシェールを最大の敵とみなし、潰しにかかっている、というわけだ。
シェールオイルの生産コストはバレル当たり60ドルから80ドルだと言われている。また、Citi Groupのアナリストは「70ドル以上なら大丈夫だが、60ドル以下では40%、50ドル以下になったら90%が経済性を維持できないだろう」としている。これらが正しいとすれば、すでに60ドルを割り込んでしまっているのだから、多くの「シェール業者は潰される」ことになる。
これに対して筆者は次のように考える。自由経済の原則が働くアメリカでのシェール生産は、すでに生産中のものおよび開発途上のものは生産が継続される。従って、シェールオイルの生産はいましばらく増加傾向を維持する。だが、新規投資は行われなくなる。だから時間が経つと、順番に生産が終了して行き、新規の生産が始まらないため、徐々に減産に移行する、と。
なぜなら、アメリカでは価格ヘッジが可能だからだ。もし筆者がシェールオイル生産者だったら、油価が下落し始める前に先物市場でヘッジをしている。大きな期待利益を放棄することになるが、ある一定の利益を確保出来るからだ。だから、今のように油価が下がっても、現在生産中の油井、あるいは生産準備中の油井の生産を止める必要はないのだ。
だが、まだ手がけていない案件の開発作業は中止または保留することになろう。今の市況では経済性が確保されないからだ。現実にシェールオイル掘削用リグの稼働台数も、所轄管庁への申請数も減少し始めている。
このように、アメリカのシェールオイルの生産は、しばらくの間は増産が続き、世界全体の供給過剰状態も継続する。従って、油価は下落を続けるか、少なくとも低位安定する。だが、1~2年すると、現在生産中の油井が枯れてくる。追加の生産井数は増えて来ない。こうして全体の生産量は減少傾向に入って行くだろう。
一方で、石油が安くなれば需要は増大する。在来型の供給は階段状にしか増えて行かない。どこかで需給がバランスする。そうすると、油価は再び上昇傾向に転ずる。これらはすべて、経済原則に基づいた経済行為の結果である。OPECの狙いはここにあるのではなかろうか。
ここで「逆オイルショック」とは何だったのか、説明しておこう。「逆オイルショック」とは1970年代の2度のオイルショックにより、バレル当たり2ドルだった原油が36ドルにまで高騰し、世界経済が吸収しきれなくなった結果、1986年夏に10ドル割れを招来した事象の事を言う。数年で18倍になった油価が半年で3分の1近くになってしまったのだ。この出来事に世界はショックを受け、間違いなく右往左往した。