原油価格下落は、アメリカにとって痛し痒し

WTI原油価格が一時的に80ドル/バレルを割り込んだ10月16日(木)、英紙Financial Timesが興味深い記事を掲載している。「サウジアラビアは石油価格政策で米国との関係をテストしている」というタイトルだ。

「世界経済減速による需要増鈍化と、アメリカのシェールオイル増産に代表される世界的原油生産増が原因で、今年6月下旬から原油価格は下落を続けている。(OPECの盟主たる)サウジは、生産削減を行うことにより原油価格を下支えすることも可能だが、今回はむしろ下落を後押ししているようだ。

原油価格が下がると、アメリカのシェール業界には痛手だが、地政学的あるいは経済的メリットも共存している。即ち、地政学的にはエネルギー輸出が頼りのロシアとイランの力を削ぐことになり、経済的には欧州や中国への好影響が期待出来るからだ。ロシアとはウクライナ問題があり、イランには核疑惑がある。欧州経済は長らく混迷状態にあり、中国経済も陰りが見え始めている。従って、原油低価格政策は総合的にはアメリカ政府を喜ばせることとなり、サウジはイラン核協議をめぐって急激に悪化したアメリカとの関係好転を目指しているでは?」というわけだ。

「サウジの国家予算は大丈夫だろうか」という疑問には、「外貨準備がたっぷりあるからしばらくは問題ない」としている。

サウジが国家予算の前提としている原油価格水準は明らかにされていないが、サウジ情勢を分析している三菱東京UFJ銀行のエコノミストは「未公表だが70ドル前後と見られて」いるとしている。サウジのアブドラ国王も数年前に「75ドルが適正価格」と発言している。従って、もう少し下ブレしても耐えられそうだ。

では、原油が安くなると、我々の日常生活はどのような影響を受けるのだろうか?

弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』で解説したように、原油(石油)は、天然ガスや石炭、あるいは原子力や水力と同じく「一次エネルギー」である。だが、これらの一次エネルギーはそのままでは日常的に使うことが難しい、そこで使いやすいガソリンや電気に姿・形を変えて使用している。ガソリンや電気は「二次エネルギー」と呼ばれ、一次エネルギーと区別されている。

冷静に考えると、一次エネルギーこそが最も大事なエネルギーなのだが、日常生活では二次エネルギーのお世話になっていると感じている。この仕組みがエネルギー問題を分かりにくくしているのだ。

では、一次エネルギーである原油が、どのようにしてガソリンに姿・形を変えているのだろうか? 原油価格とガソリン価格の間にはどのような関係があるのだろう?