日本企業の仕事への誠実さ
次に、カラーテレビ用電子チューナー部品で日本市場のシェア70%、世界市場でも50%を持つ浙江中興精密工業有限公司の経営者、張忠良氏に話を聞いた。パナソニックやソニー、シャープといった日本企業と20年近く取引を続け、日本人の素晴らしさに気がついたという。
「日本人は仕事に対して非常にまじめで、約束したことは必ず守る。それに品質に対する意識が高く、生産管理が緻密で正確です。弊社は創業5年後の1995年から日本企業と取引を続けていますが、こうした日本人の素晴らしい働き方については、私たちも見習っています」
日本人の品質に対する意識の高さを特に感じたのは、パナソニックと取引を始めたときだったという。過酷なまでの品質要求に応えるために、改善を必死に続けていたところ、99年にパナソニックの技術者たちが日本から訪れ、生産現場で半年間かけて技術指導をしてくれた。
「日本企業のこうしたきめ細かな指導と厳しい品質要求によって弊社の商品品質は大幅に向上し、会社が成長する後押しをしてくれました。力を貸してくれた日本の友人たちには、今も心から感謝しています」
自社製品の品質向上を続けて会社は急成長したものの、08年のリーマンショックにより売り上げは5分の1にまで激減。そうした苦しい経営難から脱する転換点となったのが、稲盛哲学だった。
「リーマンショック以降は何とかして会社を立て直そうと外部コンサルタントを招いたり、事業を多角化したり、厳しい成果主義を導入したりもしたのですが、業績は落ちていくばかりでした」
どうすればいいのかと困り果てていたときに稲盛哲学に出合う。
「それまでの『どう儲けるか』という西洋哲学に対して、稲盛哲学は『利他の心』を説いていました。われわれ中国の企業経営者は、中国経済の高度成長期とともに、30年以上発展し続け、お金をたくさん稼いできました。しかし、お金を稼ぐことが目的化し、何のために稼ぐのか、考えたこともありませんでした。心が空っぽだったのです。それがそもそもの問題だったと気づきました」
「従業員の幸福追求」という価値観に目覚めた張氏は、社員食堂を改善して味をよくしたり妊婦用のメニューを整えたりしたほか、誕生日を迎える社員を皆で祝うなどした。
「考え方を変えると、すべてが変わりました。経営目的を修正し、残された人生を社員の幸福追求のために経営していくと誓った瞬間から、体中に力が満ちてきました。『誰にも負けない努力』をするための意義を知ったのです」
従業員のために会社を経営すると気持ちも変わり、精神面など様々な面で随分と強くなったという。また、結果として業績も急激に回復した。
「『利他の心で判断し、社員の幸福を追求する』という稲盛哲学は苦境を抜け出す道しるべとなったのです。稲盛氏の人に対する真摯さは、日本企業の仕事に対する誠実さに相通じるところがあるでしょう」