第一の根拠は、事前に深く考えること、ひたすら考えることからくる確信である。考えることにより、将来の予測精度が高まるからではない。考える過程で選択のリスクに気づく可能性があるからである。

このひたすら考えるということを組織的に担保するのは、反対意見に耳を傾けることである。旭化成で数多くの新規事業の種をまいてこられた宮崎輝氏は、新規事業の成功にとって反対者が重要な役割を演じると言っておられたことがある。反対者はどこに落とし穴が隠れているかを教えてくれるとも言っておられる。

それだけではない、反対者は、担当者を奮い立たせるという役割をも演じてくれるとも言っておられる。いくつかの選択肢についてとことん考える。ひたすら考えることから確信が生み出される。

トヨタがプリウスの黒字化を確信した理由

第二は、能動的戦略観である。将来は予測できないが、創ることはできるという能動的思想である。将来を予測してそれに適応するのではなく、将来は自らの力で切り開いていくものだというベンチャー精神である。

もちろん、思い通りにならないこともあるからリスクもある。大企業が逡巡していた分野でベンチャー企業が成功することがあるのは、能動的な挑戦精神がベンチャー企業にはあるからである。

第三は、現場の確かな実行力への信頼である。現場の実行力が強ければ、無理な戦略でも一定の結果が生み出される。

京セラは、部品事業から出発し、その後、通信機器、通信サービス、カメラ、電話、コピー機などの無理とも思える事業に進出し、その多くを成功させている。この成功をもたらしたのは、京セラの持っている確かな実行力ではないかと私は思っている。確かな実行力は、アメーバ経営と呼ばれる同社独自の現場経営の方法から生み出されている。これはアメーバと呼ばれる職場集団の毎日の1人当たりの採算の数字をもとに仕事の仕方を改善していく方法である。

この方法は、現場の能力を着実に高める。京セラだけではない。トヨタがプリウスを導入することを決めた時点では、1台当たり50万円の赤字であったという。それにもかかわらず、これがいつかは黒字にできるはずだという確信を経営陣が持てたのは、現場のカイゼン能力への信頼があったからである。

第四は、柔軟な戦略実行力への信頼である。かなり無理な決定であっても、実行過程でその戦略が適切に修正され、世の中の要求にあったように変えられていくということがある。

その典型例は新幹線である。もともとは戦争中の弾丸列車構想を実現するという方向で選択が行われたが、その後、現在の電車方式が採用され、高速高頻度運行が可能になり、輸送力を飛躍的に高めた。東海道新幹線はたいへんな高収益路線になった。

ほかの例としては、繊維企業の多くが、天然繊維に代わる合成繊維の技術として、ナイロンを選ぶか、ポリエステルにするか、アクリルにするかという技術選択を迫られたことがある。ここで成功できたのは、どの選択をしたにせよ、衣料用にこだわらず、その素材にあった用途を見つけ出し、それにあわせた技術を開発した企業である。