「学ぶより真似べ」と巷間言われるが、古の偉人に“真似ぶ”とき、その人格性向とダイレクトに繋がれる素材があるとしたら――。
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図1 ※出典:日本筆跡診断士協会『筆跡特徴マニュアル72項目の解説』から抜粋

筆跡は、人間の「書く」という行動によって残された痕跡です。人にはそれぞれに固有の行動傾向、いわゆる性格や人間性がありますが、「書く」という行動も同様です。他人の筆跡を真似た一字を100回続けて書こうとしても、不安と息苦しさで30回程度が限界。「書く」行為はそれほど独自性の高いものです。

40代の頃そこに気付いた私が、大学で学んだ心理学を素地に研究を重ね、筆跡に表れる特徴を体系的にまとめたのが筆跡診断です。複数の筆跡を比較し、筆者が同一か否か識別する「筆跡鑑定」とは異なり、書き手の人柄を筆跡から読み取ります。

私は、筆跡の基本的な特徴を72種に分類、うち10種をピックアップしました(図1参照)。そこから浮かびあがるのは、普段は潜在意識下にある行動傾向です。たとえば「平」のような字の横線を左に長く引いて書くタイプ。これを「横線左方長突出型」(図1【4】)と呼んでいます。この型が頻繁に見られる人には、頭の回転が速い才子・才女が多く、平凡では満足できない天才肌。歴史上の人物でいえば、真田幸村、坂本龍馬、大久保利通などがこのタイプです。

また、木偏の上部の突き出しが長い「頭部長突出型」(図1【3】)の人は野心家で、人の上に立とうとする志向があります。たとえば中曽根康弘、田中角栄、福田赳夫など歴代の総理大臣の書には、この傾向が非常に強く出ています。このように、筆跡にはその人の職業・役割の適性に当たるものも色濃く表れています。

ある人がリーダータイプか参謀タイプかも、筆跡から窺い知ることができます。たとえば、織田信長の筆跡に見られる「強連綿型」(図1【8】)の“連綿”とは線と線、字と字が続くことを言い、信長のそれは途切れることのない太い線で綴られています。自信家で肝っ玉が太く、思ったことはやり遂げようとする強い意志の持ち主に多く見られる筆跡です。「忠臣蔵」の大石内蔵助にも同じような特徴があり、典型的なリーダータイプの筆跡といえるでしょう。

信長と同じ天下人でも、豊臣秀吉は「大弧型」(図1【2】)。突如として大きな円弧が出現し、しかもそれが滑らかに勢いよく書けています。角を立てず、周囲と折り合いをつけながら人をまとめていくリーダータイプで、これも天下取りの筆相です。

では、参謀タイプの筆跡にはどのような特徴があるでしょう。参謀タイプには、実は典型と呼べるものはありません。トップがどういう人間かによって、求められる性格傾向が異なってくるからです。ここでは黒田官兵衛の筆跡を見てみましょう。