朝早く起きたほうがいいことはわかっているのだが、具体的なメリットとは何か──。
朝活のプロの実践方法からそれらを引き出すとともに、脳科学で早起きによる潜在能力を引き出すメカニズムを解明する。

集中力アップに朝活がいい理由

日本大学大学院総合科学研究科教授 林 成之氏

「早起きによる生理的効果」は科学的に解明されてはいないのだろうか。

「脳科学を研究してきた立場からは、ビジネスマンには朝活がお勧めといえるでしょう」と語るのは、日本大学大学院総合科学研究科教授の林成之さんだ。脳外科医として救急医療で長年活躍してきただけでなく、脳科学の研究成果を生かして、08年の北京オリンピックでは競泳日本代表チームのメンタルトレーニングを指導、北島康介選手の金メダル獲得などに貢献したことでも知られる。

ではビジネスマンには、なぜ朝活が向いているのか。その説明の前に、まず脳の仕組みを簡単に理解しておこう。外部から脳に入ってきた情報は、初めに「大脳皮質神経細胞」から「A10神経群」と呼ばれる部位に達する。A10神経群では、自分にとって好きか、嫌いかというレッテルが情報に貼られる。次に、情報の理解・判断を担当する「前頭前野」に伝えられ、プラスの情報であれば、「自己報酬神経群」に送られる。その情報は、さらに「線条体―基底核―視床」「海馬回・リンビック」に進んで、より価値の高い情報になっていく。このA10神経群から海馬回・リンビックまでの流れが、「ダイナミック・センターコア」と呼ばれるものだ。ここを情報が巡ることによって、人間は物事を考える。いわば思考回路だ。

ダイナミック・センターコアのなかで、とりわけ朝活と深くかかわってくるのが前頭前野で、ここでは物事の是非を判断する基盤ともいうべき「統一・一貫性」という本能が働いている。「その統一・一貫性が集中力を高め、本来持っている才能を発揮するカギになっている」と林さんは指摘する。

「統一・一貫性は、物事の筋道が通っているかどうかということ。そのことが集中力と関係があって、統一・一貫性が保たれるように環境を整えると、集中して脳がスムーズに活動できるようになります。人混みのなかでも気にせず、思考に集中できる人がいますよね。そういう人は『自分の世界に入っている』とよくいいます。統一・一貫性を保つ環境をつくっているのです。そうした環境を、私は『マイゾーン』と呼んでいます。一流のアスリートも、たいていマイゾーンを持っています。だからオリンピックのような大舞台でも、普段どおりの実力を出せるのです」