Jacques Attali
1943年生まれ。アルジェリアの首都アルジェ出身。フランスのエリート養成機関であるグランゼコールを卒業後、38歳にしてミッテラン大統領の大統領特別補佐官に抜擢され、頭角を現す。現サルコジ政権の知恵袋、「アタリ政策委員会」のトップとして、フランスの財政再建政策のカギを握る人物として知られる。
大前研一
1943年生まれ。横浜市出身。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。日立製作所を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社長を務めた。当時、中曽根康弘元首相の知恵袋としても活躍。現在はビジネス・ブレイクスルー大学の学長として政策提言のみならず社会・教育分野に精力的に活動。

【アタリ】社会としての知性を意味する「集団IQ」という比喩は示唆に富んでいると思います。現実を直視することは、事態が深刻なほどつらいものです。そのため「このままでは必ず破綻しますよ」という現実的な意見よりも、来年の選挙で勝つことしか頭に浮かばない政治家が発するどうしようもなくいいかげんな楽観主義に基づいた意見のほうが尊重される。対策を打ち出す時期が先延ばしにされることから、選択肢も助かるチャンスも減る一方です。

【大前】アタリさんは公的債務の解決策として歴史的に8つの方法(増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルト)しかないと述べていますが、日本政府には歳出を削減しようとする気などないようです。このままでは日本国民が危機に呑み込まれる以外に選択肢はなさそうです。

【アタリ】私は『国家債務危機』を執筆しながら、国家債務の膨張が手遅れとなる前に機敏に対応して破綻を回避した事例が歴史的に見て稀であることをあらためて痛感しました。

長期的な視野を持ったリーダーを生み出すための制度的な仕組みがない民主主義の下で、どうすれば大局的な判断を下すことができるのでしょうか。たとえばフランスでは大統領の任期が7年から5年に短縮されました。私はこれに反対でした。一方、日本では首相が毎年、あるいは数カ月おきに交代しています。これは非常に恐ろしい事態です。嫌われ者になるくらいの時間的な余裕がなければガバナンスなどできません。

【大前】まったくその通りです。