ブランドメイキングに成功するか
初代LSがアメリカで大きな成功を収めながら、その後のオペレーションがうまく行かなかった大きな理由は、自らのポジションに関する現状分析が少なからず間違っていたからだ。LSの成功で、トヨタの経営陣、開発陣は、持てる技術力を駆使して品質と耐久性に優れたモデルを出しさえすれば成功し続けられるのだと思い込んだ。日本でレクサスを展開したものの、販売スコアを思うように伸ばせなかったことについては、あろうことか「日本のユーザーの盲目的な舶来信仰のせいだ」(レクサス部門元首脳)と言い放つありさまで、世界トップレベルの技術を駆使して作った車がプレミアムセグメントとして受け入れられる商品力を持っているかどうかということについては、ほとんど検証されることがなかった。
福市氏のブランドメイキングのスタンスは180度異なる。これまで金科玉条としてきた技術レベルの高さや先進性、仕立ての丁寧さは、あって当たり前のこととして、それに加えてレクサスならではのテーマ性を前面に押し出したデザインや、プレミアムセグメントに相応しい乗り味など、これまで苦手としてきた情感部分についても力を入れるという。それと並行して、これからさらに積み上げていかなければならないと考えている“物語”。これらすべてが揃って、初めてレクサスのブランドメイキングを成し遂げられるというのが福市氏の考えだ。自分たちが元々優れているという思い込みを捨てているぶん、プレミアムセグメントでの地位向上への取り組みは確実に一歩前進したと言える。
福市氏はデザイン部門出身で、現役デザイナー時代は初代「エスティマ」などエポックメーキングなモデルのデザインを手がけた。その後、関東自動車(現・トヨタ自動車東日本)に転籍したが、2011年、ブランド力の向上を図るためにはデザイン改革が必須と考えた豊田章男社長がトヨタに呼び戻し、その改革の推進役に据えた。レクサスGS「クラウン」など、フロントマスクの意匠性が強いモデルは早い段階で出始めたが、デザイン改革が始まった後にゼロからデザインされたモデルの初出は昨年のレクサスIS。NXは、レクサスとしては完全新世代デザイン第2号のモデルである。
「このままデザイン改革をやっていくのかなと思っていたら、今年4月に突然、社長から『レクサスのトップをやれ』と言われた。私は『やるからには徹底的にやりますが、それでいいですか』と答えました。それでいいと言われたので引き受けたのです」(福市氏)