世間のことがある程度わかった大人になってから、受験科目を見直してみると、なかなか知的好奇心をくすぐるものがある。もはやテストの心配もない。「大人の教養」を楽しんで身につけてみませんか?
遠い時代を生きた人の心情に思いを馳せる
源氏物語、枕草子、徒然草……。古典の名作のタイトルはみなさんご存じでしょう。しかし、教科書を離れ、原文を読んだ人は少ないのではないでしょうか。
やはりネックになるのは現代では使われていない単語や文法。係り結びや、あり・おり・はべり・いまそがり(いますかり)、といった古文の授業を思い出すとうんざりして古典を原文で読む気にはなれないかもしれません。
されど、時代は異なりこそすれ同じ日本語。作品によっては、原文でもほぼ理解できるものもあります。
まず、お勧めしたいのが井原西鶴の『日本永代蔵』です。日本初の経済小説といわれる作品で30章の短編からなり、商売の成功事例(20)と失敗事例(10)が描かれています。興味深いのは事例それぞれに成否の要因や教訓が書かれていること。そのなかにはビジネスマンにも共感できる要素があるはずです。
時代が近いので江戸期のものは読みやすい。しかも、リズミカルな文体と相まって堅苦しくもありません。なじみの企業の嚆矢も知られ、西鶴だけにギャグの才覚も身につきます。
この作品が発表されたのは1688年。松尾芭蕉が「おくのほそ道」に旅立ったのが1年後。時は元禄、日本文芸のルネサンス、経済界も青年期。時代は動き、躍動しました。そのエネルギーを読み取ってみてください。