東海道新幹線に磨きをかけろ

こうして一つ一つ考えていくと、リニア中央新幹線は本当に必要なのかという根本的な問題にゆきつく。一も二もなくリニアが必要と言っているのは葛西名誉会長だけだが、JR東海の社員は怖くて誰も異論を唱えられない。安倍首相以下、政治家や役人も以下同文だ。

20年の東京五輪が決定して、「オリンピックまでに開業を間に合わせろ」と無理な注文が出てきたり、「前倒しで27年に大阪も同時開業しろ」という声が関西の政財界から出てきて、リニアに対する期待感が妙に膨らんでいるが、ちょっと頭を冷やしたほうがいい。

リニアの技術そのものは世界的に見ても素晴らしい。しかし採算の見通しが立たず、利用者のニーズが見えないまま、JR東海の東の玄関口である品川から本社がある地元名古屋までリニア新幹線を通すというのは、あまりに我田引水すぎるのではないか。血税を入れないで自前でやるとしても、それだけの余裕があるなら、東海道新幹線の料金を引き下げるべきだ。

誰もそんなに急いでトンネルの中を疾走して名古屋に行きたいと思っているわけではないだろう。そうした利用者視点に立ち返って議論し直すべきだと私は考える。

JR東海がやるべきことはほかにある。まずは東海道新幹線に磨きをかけることだ。

東海道新幹線そのものを強靭化することはもちろん、新幹線がフルスペックの時速320キロメートルで走れるようにカーブを削るなどの修正工事をする。それなら5兆円もかける必要はない。コストはその10分の1以下で済むだろう。

旧国鉄の中でも、JR東海は東海道新幹線を持てたがゆえに順調な経営ができた。そのお金(借入金も含めて)は、東海道新幹線を磨き上げるために使うべきであって、長野新幹線のJR東日本と北陸部分を担当するJR西日本へのライバル意識から途方もないロケットを飛ばすために使うべきではないと私は思う。旧国鉄の分割民営化にはよかった点が多いが、JR東とJR西に挟まれたJR東海が、内輪の論理で取り返しのつかない道に突き進むのを止めるのは、国民世論しかない。

(小川 剛=構成 市来朋久=撮影 AP/AFLO、AFLO=写真)
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