JR東海はもっともらしい理由を説明

実質的にはそれほど移動時間短縮のメリットがあるわけでもない。86%が地下の道程は地下鉄に乗っているようなもので旅情も何もない――。リニアをどれだけの人が利用するのか、甚だ疑問だ。それはJR東海も理解しているようで、リニアの料金は在来の新幹線並み(「のぞみ」の指定席料金+700円)に抑えるという。つまりは総工費5兆円の回収の目途は立っていないわけで、結局は政治力を使って資金を補てんしてもらったり、税金を優遇してもらうしかないのだろう。

採算が見込めないのに、なぜ「開業」を目指すのか。リニアの実用化に向けてJR東海はもっともらしい理由を説明してきた。曰く、開業半世紀を迎えた東海道新幹線は老朽化して大規模改修が必要になる。近い将来、東海道新幹線の輸送力がひっ迫する。3.11後は、東海地震に備えて代替ルートを確保するという理由も加わった。

しかし、どれもこれも説得力は乏しい。東海道新幹線の老朽化について言えば、橋などは強靭化する必要があるかもしれないが、レールは相当な頻度で交換している。新しい車両も次々と導入していて、老朽化による危険性は感じない。

東海道新幹線の輸送量が急増して、輸送力の限界が叫ばれたのはバブル期のこと。「のぞみ」導入後、今では東京-大阪間の新幹線が3~7分おきに出ているので、輸送力のひっ迫感はまったくない。しかも人口が1億人を維持できない、という衰退社会では前提条件が昔とは様変わりしている。

一方で、確かに東海地震が起きれば、日本の大動脈である東海道新幹線が運行不能になる可能性が高い。しかしそれはリニア中央新幹線も同じことで、むしろ南アルプスを走るトンネルなどの構造体のほうが地震による破壊に弱いだろう。ましてやフォッサマグナが動いてしまったら、すべてが寸断されてしまう。地震でリニア中央新幹線が同時にやられない保証はどこにもないのだ。

東海道新幹線の現実的な代替路線は長野新幹線、北陸新幹線になるだろう。東京から長野経由で富山、金沢、敦賀まで行って、米原回りか、あるいは琵琶湖の西側を通って大阪まで下りてくる。北陸新幹線は来年金沢まで開通し、(リニアの27年開通よりも早い)25年には敦賀まで延びる。敦賀-大阪間もリニアに比べればはるかに通しやすい。

災害時のバックアップルートは速さよりも確実につながることが要求される。堅実性でリニア中央新幹線よりも長野・北陸新幹線に軍配が上がるだろう。