「朝残業は、基本的に時間外手当の対象となります。残業代の申請じたいを躊躇させる職場の空気をどう乗り越えるかがポイント」――労働問題に詳しい東京法律事務所の菅俊治氏が言う。
「ただ、始業時刻はまちまちだし、フレックスかどうかによっても違う。終業時刻を過ぎた“後ろ”の残業と違って、朝5分、10分早く来る分が残業といえるとは限らない。個別に丁寧に見ていく必要がある」(菅氏)
まずカギとなるのは、朝早く出社する理由。出社するよう指示があったり、何らかの準備の必要がある、もしくは仕事そのものの多さから残業が必須と認められればOKだ。
「点呼、着替え、掃除などのための朝残業は、時間外手当を巡る争いごとの『古典』。これらは労働時間に当たります」(菅氏)
朝礼・掃除はほとんどの職場で義務とされており、ほぼ100%、労働時間として認められる。朝の勉強会などの場合は強制だったり、これに出ないと賃下げなどの不利益があればOK。
「行う場所は考慮する要素の一つにはなるが、本質的な要素ではない。ファミリーレストランであれホテルの会議室であれ判断の決め手にはならない」(菅氏)
半面、例えば始業9時の職場で8時48分に出社し、定時17時の5分過ぎに退社した場合、朝の約12分は、普通なら電車1本分程度の差であり労働時間であるとは認めにくい。通勤時間の混雑を避けるため、というだけでも難しい。
「ほかには、例えば勤務先の門を入ってから就業場所に至るまで、あるいは更衣室で着替えてから就業場所に移動するまでの時間は労働時間として認めるべきか? といったことが争点となっている。このあたりについては、微妙な事例がたくさんある。会社側もどうしても譲れない部分があり、組合も白黒はっきりさせることに意味を見出していることが多く、最後は裁判官の判断にゆだねたり、双方の間を取って解決せざるをえない」
菅氏は、「何時から何時まで残業した」という記録を日頃から確実に残しておくことを勧めている。もし手当が出せなくても、企業側は何らかの対応を行う義務を負うことになるという。