爆発的に普及する「イノベーションの法則」とは

シネック氏は、ここで「イノベーションの法則」を紹介している。簡単に説明させていただくと、米国の学者エヴェリット・ロジャーズ氏(※2)の理論が普及と時間の関係を表す分布図をつくり、新製品の普及がどんな風に起こるかを表したものだ。普及していく段階で、行動を起こす時間的なズレから消費者を5つに分類している。

1.イノベーター(革新者) 2.5%

2.アーリー・アダプター(初期採用者) 13.5%

3.アーリー・マジョリティ(初期多数派)34%

4.レイト・マジョリティ(後期多数派) 34%

5.ラガード(採用遅滞者) 16%

イノベーターと呼ばれる人たちは、たとえばアップルストアで新製品の発売前日から泊まり込んで製品を手に入れるような人たちであり、何もせずに「1番乗り」を好んで自ら動いてくれる。アーリー・アダプターも含めると、およそ10パーセント強の人たちは自分から動いてくれるだろう。

ところが、ここから先の「マジョリティ」とのギャップが大きい。アーリー・マジョリティは「誰かがそうしたから」を理由に製品を手にとる。マスマーケットで成功したい、あるいはアイデアを受け入れて欲しいなら、このギャップを埋める臨界点である15%から18%の市場浸透率が必要だされている。そこからは「人が持っている」「よかったらしい」から広がりやすくなるというわけだ。

だからこそ、自分の直感に従って決める初期の行動者であるイノベーターたちを惹きつけて行動をしてもらう必要がある。彼らが行動を起こしたくなる「なぜ」の理念から伝え、イノベーターたちに自ら「そうしたい」と思ってもらうことが必要なのだ。

最後にシネック氏は、キング牧師の伝え方をこんな風に話している。

「彼はアメリカを変えるために何が必要かなどを説かず、自分が信じることを語りました。『信じている、信じている、信じている』と語りました。「『私には夢がある』という演説をしたのです。けっして『私にはプランがある』という演説ではありません。彼が信じることを信じた人々が彼の動機を自らの動機とし、他の人にも伝えたのです。『なぜ』から始める人が周りの人を動かし、さらに周りを動かす人を見出せる力を持つのです」

「I have a dream.」 の演説に心動かされた人々がいて、その言葉は後世の私たちにも語り継がれている。それは決して「I have a plan.」ではなかった。これこそ、シネック氏が説きたかった内容が凝縮された言葉だと言えるだろう。

伝えるときにはまず「なぜか(Why)」の理念からを伝えていく。そこから初めて機能や製品の紹介につなげていく。こうした逆転の発想は、こんなにも人を動かすものなのだ。

[脚注・参考資料]
※1)Tivo:内蔵のハードディスクにテレビ放送を録画する家庭用映像レコーダーと開発した企業の名称。
※2)エヴェリット・ロジャース(Everett M. Rogers, 1931年-2004年):アメリカのコミュニケーション学者、社会学者。米国ニューメキシコ大学、コミュニケーション・ジャーナリズム学科名誉特別教授。イノベーションを社会的に解説した普及学を確立した。『Diffusion of Innovation』により、新しい概念や商品、文化などが普及するプロセスを分析。

TED Simon Sinek, How great leaders inspire action、 Filmed Sep 2009
http://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_action

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