5月15日。安倍晋三首相は記者会見を開き、集団的自衛権の行使を検討する政府方針を発表した。アンチ安倍の朝日新聞が「近づく 戦争できる国」といった刺激的な見出しを掲げ首相の姿勢を批判したのは想定内として、意外なのは自民党内の反応。「よりによって15日に発表するとはどういうつもりか」と戸惑う声が党内のあちこちから上がったのだ。
原因は、5月15日が沖縄の本土復帰記念日だったこと。悲惨な戦場となった沖縄は、1951年サンフランシスコ講和条約の調印により本土から分離され米国統治下に置かれた。72年5月15日に沖縄は本土復帰を果たすが、在日米軍基地の大部分は沖縄に集中。米軍機墜落事故や航空機の騒音、米軍兵士による性犯罪などに、今も沖縄は苦しんでいる。
「沖縄には米軍基地が集中しており、戦争になったら真っ先に攻撃されると懸念する沖縄県民もいる。本土復帰記念日は沖縄県にとって平和を祈る日のはず。その日に集団的自衛権行使検討の政府方針を発表したら、沖縄を刺激するだけでプラスにならない」(自民党中堅代議士)
それでなくとも普天間飛行場の名護市辺野古移転を争点とした名護市長選で自民党は敗北し、移転反対派の市長の誕生を許している。今秋には沖縄県知事選が控えており、沖縄の県民感情を刺激しないよう配慮するのが党内の暗黙の合意だった。それなのになぜ、本土復帰の日に会見をぶつけたのか。
「実は官邸では当初、5月13日に安保法制懇の報告書提出を受けて会見を開く予定でした。ところが新聞がそれを前打ち(事前に報道)したため菅義偉官房長官の判断で急遽、15日に変更になったのです。会見日を変更した後、溜飲を下げた菅氏は“マスコミは間違った報道をした”と笑っていたそうです」(官邸筋)
菅氏は、これまでも政府人事などで新聞等が前打ちすると人事をやり直したが、今回も同じことをやったわけだ。
「ところが菅氏は、その15日が本土復帰日であることをうっかり失念していたようです。さすがに後で気付き、後日の会見では“沖縄振興に全力を挙げる”と取り繕ったが、お粗末です」(同筋)
安倍首相は1月、辺野古移転を巡り「地元の皆様のご理解をいただきながら、誠意をもって前に進めていきたい」と語ったが、この体たらくでは首相官邸の沖縄重視も掛け声倒れに終わるかも。