勝負強い監督、接戦に弱い監督……、監督の発想は、すべて現役時代のポジションから湧き出ている。歴代監督をポジション別に徹底分析する。

ファンにアピールする「魅せる野球」

川上V9後、日本一になった三塁手出身監督は2人しかいない。長嶋茂雄と原辰徳。いずれも巨人なのは偶然ではない。巨人の監督は歴代生え抜きが務める。巨人の選手にあらずんば監督にあらず、というわけである。そこには、スター選手だったという条件が付加されるのはいうまでもない。

三塁を「ホットコーナー」と呼ぶのは、強い打球が飛んでくるからだけではない。スタンドに近く、ファンに熱いプレーを見せるポジションという意味も含まれている。

過去、長嶋について綴った書物はあまたあるが、王貞治の『回想』ほど的確に表現したものはないだろう。

〈こと技術に関しては、長嶋さんより上だと確信している。しかし、長嶋さんが私と違っていたところは、プロ野球というものを長嶋さんが“見せる芸”として把えていた点だ。日本のプロ野球の中では、見せる意識を持ってプレーしてきた選手は、後にも先にも、長嶋さんをおいて他にいないのではないか〉

“見せる”という言葉は“魅せる”という字をあてたほうが、より長嶋らしいかもしれない。三塁キャンバス寄りのゴロを横っ跳びし、すぐさま起き上がり一塁へ遠投するプレーは、三塁手の最大の魅せどころである。

長嶋の場合は、平凡な三遊間のゴロであっても、ファンへのアピールを忘れなかった。一塁に送球後、手をひらひらと打ち振り、足を送る独特のしぐさは、歌舞伎界の名優・市川團十郎の所作を真似たものであった。

千葉県印旛郡臼井町(現・佐倉市)の役場で収入役を務めていた長嶋の父・利(とし)が、若い頃、女形を演じた村芝居のスターだったことと無関係ではあるまい。

1500試合以上出場した三塁手の中で、通算守備率9割6分5厘は歴代1位を誇るが、試合が一方的展開になり、観客が退屈しているときに限って、絵に描いたようなトンネルをしてみせた。長嶋の長嶋たるゆえんは、こんな“魅せる芸”にあった。