政府も経団連も、非正規、R正社員、N正社員、G正社員の4階層化を後押し
ところで非正社員の正社員化の流れは、いみじくも政府サイドの2つの動きと呼応している。
1つは、昨年4月に施行された勤続5年を超えた有期契約労働者の無期転換権を認めた改正労働契約法。つまり、昨年4月を起点に非正社員として5年後の2018年まで勤務すれば、正社員にしなければいけないというものだ。
非正社員にとっては朗報だが、条文には「労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件とする」(18条)とある。つまり、正社員にしても給与は非正社員のままでもかまわないという規定だ。じつは、この規定は従来の正社員と処遇が異なる"新たな正社員"の誕生を許容していると読めるが、まさに限定正社員の存在を法的に後押しするものといえなくもない。
そしてもう一つは、安倍政権が成長戦略の一つに掲げる「多様な正社員」、つまり限定正社員の普及・拡大だ。その狙いは前述したワークライフバランスの推進以外に、解雇しやすくなるという点にある。その理屈はこうだ。
一般的に正社員の解雇は厳しいと言われる。なぜなら解雇する場合は4つの要件([1]人員削減の必要性、[2]解雇回避努力、[3]人選の合理性、[4]手続きの相当性)をクリアしなくてはならないからだ。
だが、地域限定正社員の場合は、たとえば雇用される時に「勤務地の事業所が消失した場合は解雇されても文句はいいません」と明記した労働契約を結ぶことになる。正社員は勤務地の事業所が閉鎖された場合、会社は別の事業所に配置転換する努力をしなければならないが、勤務地限定正社員は[2]の解雇回避努力の必要性がなくなることになる。つまり、勤務地がある限りは雇用が保障されるが、なくなれば解雇のリスクが高まることになる。
現在、政府はこの点も含めて検討している最中であるが、焦点の一つは法的拘束力のないガイドラインに留めるのか、あるいは限定正社員の解雇ルールを立法化するのかという点だ。政府の産業競争力会議の一部や経団連はガイドライン以上の解雇しやすくできる法的効力のある仕組みの整備を求めている。
もしそうなれば限定“正社員”の魅力の一つである雇用保障さえも失うことになりかねない。そして、今の正社員も安閑としておられない。もちろん、本人の同意が前提となるが、人事評価の善し悪しによって正社員から限定正社員の身分に落とされる可能性もあるのだ。
おそらくこのまま進めば、雇用保障が薄く、かつ年収も正社員の半分程度の「地域限定正社員」が日本に多数誕生することになる。ファストリは地域限定正社員と国内転勤型のナショナル社員以外にグローバルに異動する「G(グローバル)社員」制度を導入する予定だ。
じつは同社に限らず、グローバル企業の多くは世界の拠点を幹部職として異動する一部の社員に限定した給与制度の構築を進めている。当然、グローバル社員の給与は一般の正社員よりはるかに高い水準を設定している。
日本の雇用形態は現在、非正社員と正社員という2層構造である。だが、今後、非正社員、地域限定正社員、ナショナル社員、グローバル社員という所得が異なる4段階のカースト的階層に分離していくだろう。