独自販路を切り拓く――農協と取引ゼロ。台湾での価格はキロ1500円

日本全体のコメ輸出量は2200トンほど(2012年実績)。その1割以上を占める国内最大のコメ輸出農業家が新潟県にいる。玉木修氏(34歳)だ。

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輸出額の推移

玉木氏が率いる「株式会社新潟玉木農園」はパート従業員も含めて10人ほどの陣容。自社で生産する量の10倍のコメを新潟および山形の契約農家から仕入れて、関東地方をはじめとする全国、そして海外へ販売している。農協との取引はゼロだ。

「農協を卒業して全国に打って出たのは親父です。でも、海外には出なかった。親父が全国大会なら俺はワールドカップで勝負しているんです」

ふてぶてしさすら感じさせる玉木氏は、職人肌の生産者というよりも凄腕の企業家という印象だ。ただし、10年前に海外販路を志したときはまさに背水の陣だった。

「20歳で就農して数年のうちに減反率が上がって、米価は落ちた。うちみたいに規模が大きい農家ほど打撃を受けるし、景気が悪くなると高いものから売れなくなるでしょう。新潟のコメが真っ先にやられると思いました」

その頃に読んだ新聞記事には、「農産物が輸入されるならば同じだけ輸出すればいい」と単純明快な自由競争の論理が書かれていた。感化された若き玉木氏は農水省や県庁に問い合わせる。どうすれば玉木農園のコメを輸出できるのか、と。しかし、返ってきた答えは「先行事例がないからわからない」。

ならば自力で輸出するしかない。生まれて初めてパソコンを買ってネットにつなぎ、日本以上に短粒種のコメを消費している台湾の事情を探った。輸出入を手がける食料卸会社の名簿を手に入れ、「玉木農園のコメを輸出したい」旨を日本語で書いたFAXを30社に送った。うち2社から返事があり、玉木氏は10キロのコメを抱えて現地入り。そのうち1社と契約にこぎつけた。

「いまだから言えますが、そこには契約破棄をされているんです。担当者がヘッドハンティングされ、輸出入ができる人がいなくなったと謝られました」