ゆとり君・ゆとりちゃんは、一般に87年4月2日生まれ以降を指している。フロントランナーは10年3月に大学を卒業し、徐々に社会に進出し始めている。いまの23~26歳あたりの若手社員がゆとり世代に当たるわけだ。
彼らは、いわゆる“ゆとり教育”を受けて育ったためにそう呼ばれている。ゆとり教育は個性の伸張を図るべく、国が推進した施策である。知識詰め込み型の管理教育を改め、自由時間を増やして学びたいことを自主的に学べるようにした。ところが、それが裏目に出て、「自己中心的で、社会性に欠ける若者を増やした」とも批判されている。また「ゆとり世代は学力が低い」と見る向きもある。
実際に、ゆとり君・ゆとりちゃんを受け入れている企業の間でも新手の“モンスター社員”の出現かと、動揺を隠せないところが多いようだ。新人であることを割り引いても、「ゆとり世代は使えない子が多い」という厳しい声が上司や先輩から多数上がっている。
コンサルティング会社勤務の北原さんは彼らについて「マイペースで、順応性に乏しい」と指摘する。鉄鋼メーカー人事部の渡辺さんも「自分では何をしたらいいかわからず、具体的な指示を出さないと行動できないゆとり君・ゆとりちゃんが多いですね」と嘆く。また、製薬会社に勤める横尾さんは「後輩のゆとりちゃんにセミナーの企画を任せたら、提出期限前日になっても全く進んでいなかったのです。慌てて当人に問いただしたら、企画の何たるかがわかっていないことがわかりました。結局、企画書の書き方などを一から教えるはめになってしまいました」と自らの経験を思い出しながら疲れた表情を浮かべる。
実は、ゆとり君・ゆとりちゃんは、同じ20代の先輩たちからも冷たい視線を浴びているのだ。
メガバンク勤務の桜井さんは、「3歳年下の後輩は学生気分が抜けず、社会人として当たり前のこともわかっていません。かといって仕事を教えてあげても、一を聞いたら一しかできず、全然成長しないのです。ロボットのように応用がききません」とあきれ顔。
政府系金融機関に勤める同年齢の江本さんも「ロジカルな議論ができず、コミュニケーション能力が低い。仕事の進め方も詰めが甘いので、うまくいかないことが多いですね」と酷評する。
皮肉なことに、ゆとり教育では、必ずしも自主性は身につかず、思考力や判断力も育たなかったようだ。学校教育のツケを回される企業はたまったものではないが、かといって、これからゆとり世代社員が増え続けるなか、手をこまねいているわけにもいかない。
リーマンショック後に入社してきたゆとり君・ゆとりちゃんは、実は厳しい就職戦線をくぐり抜けてきたツワモノのはず。全体的な評価は芳しくないものの、もちろん個人差はあって、優秀な人材も少なくない。「もともと“地頭”はいいので、上の世代がうまく指導すれば、モノになるはずです」(渡辺さん)、「好奇心が旺盛で、集中力の高い子が多い。社会性が身につけば問題ないのではないでしょうか」(北原さん)と、期待する向きもある。ゆとり君・ゆとりちゃんの人数は多くはない。前途多難ではあるが、一人前のビジネスマンになるまで、上司や先輩がつききりで、じっくり育てていくしかなさそうだ。