クルマの中身は電気式へ入れ替わった
繰り返し述べてきたように、タブレット型PCの急速な普及で、12年、日本電産の主力事業であるHDD向けモーターは減産を余儀なくされた。この変化は私の予想より2年ほど早かった。だから対策が遅れたのは事実である。
ただ、今回の落ち込みは一時的だ。
というのも、タブレット型PCやスマートフォンの普及は、クラウド・コンピューティングの進展と裏腹である。クラウド化するということは、膨大なデータが個々のPCからデータセンターへ移動するということだ。たとえば電子書籍はタブレット型端末で手軽に読めるが、コンテンツのデータそのものは遠く離れたデータセンターにある。このデータが猛烈な勢いで増えているのだ。
そうなると、データセンターの容量にもじきに限界がくる。私の予測では、14年からデータセンターの増強、増設が本格化するだろう。データセンターには、1カ所あたり20万~30万台という大量のHDDが使われる。これが1万カ所新設されるとしたらどうだろう。そうなればHDD向け精密小型モーターも、需要が急回復すると見ている。
それまでの2年は我慢の時期だ。
車載用の市場も、14年ごろから本格的に立ちあがる。EV(電気自動車)がガソリン車やハイブリッド車に置き換わるのはまだ先だとしても、現代の自動車には高度な低燃費化や安全のための技術がどんどん取り入れられている。その動きは急だ。クルマの中身は機械式から電気式へ入れ替わったといっていい。
低燃費化を進めるには、エンジンだけではなく、車体の軽量化や油圧機構の見直しなども必要だ。そこにはモーターの果たす役割がいくらでも見つけられる。またEVが普及期に入れば、動力用のモーターが巨大な市場になるはずだ。
となると、われわれとしても技術革新を進めなくては、それだけの需要を取り込むことはできない。日本電産は磁石を使わないモーター(SRモーター)の開発などで先行しているが、こうした先行開発を行っているのが基礎研究所だ。そこに注力するという方針は、もちろん不変である。
1944年、京都府生まれ。67年職業訓練大学校(現職業能力開発総合大学校)卒業。73年に日本電産を創業し、現職。昨年度は、Kinetek、avtron、ASIなど海外企業を買収し、買収した会社は計37社に。「知的ハードワーキング」をモットーとする。