天ぷらなど脂っこいものを食べたり、食べすぎたりしたときに、喉からみぞおちにかけて焼けつくような感じがする症状が胸やけである。一過性のものと思ってあまり気に留めない人が多いが、この症状が長引いたり、回数が増えると、食道粘膜に炎症や潰瘍を起こす「逆流性食道炎」になってしまう。

最近、この逆流性食道炎の患者数が増えており、大変な注目を集めている。どのくらい増えているのか。30年前は上部消化管内視鏡検査を受けた人のうち逆流性食道炎の患者は5%程度だったのが、今では30%弱になっている。それらの患者には治療が勧められているが、それは放っておくと手術が難しい食道がんにも結びつくからである。

逆流性食道炎の増加原因には4つある。「食生活の変化」「肥満者の増加」「高齢化社会」「ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が進んだ」で、なかでもとりわけピロリ菌の除菌が注目されている。

日本人の40歳以上の人々では、ピロリ菌感染者が80%を超えている。胃にすみついているピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍のみならず、胃ガンにも関与している菌である。2000年11月から、胃・十二指腸潰瘍治療におけるピロリ菌の除菌治療に保険が適用になったことで、除菌を行う人が増えた。除菌を行って、きれいな胃粘膜になると、胃自体も若々しく元気になる。そのため胃の動きが活発になって、逆に、胸やけを起こしやすくなるというメカニズムである。

胸やけの頻度が増えると、逆流性食道炎のみならず、潰瘍に進行する。潰瘍を繰り返していると、その部分がバレット上皮といわれる異常粘膜に変化してしまう。このバレット上皮は、食道ガンの発生率が、通常の粘膜の何と40倍も高いのである。

さて、食道ガンに結びつきかねない逆流性食道炎。胸やけが週に3回以上も起きるようであれば、消化器科や消化器内科での治療と生活改善が必要となる。

治療の中核は、胃・十二指腸潰瘍治療と同じく、胃酸の過剰分泌を抑制する「H2ブロッカー」や「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」の投与である。
一方で、生活改善策として以下のことに気をつけるようにする。

 「脂肪だけでなく、自分自身が胸やけを起こしやすい食材を知って対応する」
   「肥満は腹圧を強くし、胸やけを起こしやすくするので、肥満を解消する」
   「腹圧という点で、ベルトやコルセットは強く締めすぎないようにする」
   「前屈みの姿勢を長く続けない」

これでも改善せずにQOL(生活の質)が悪ければ、手術を選択することになる。度を越した胸やけのある人は、専門医の診察を受けることから始めよう。

 

食生活のワンポイント

胸やけを起こしやすい要素として、食生活、姿勢、腹圧の3点がある。食生活の点で予防、改善に結びつけるための5カ条は次のとおり!

1、食事は一度に食べすぎず、ゆっくり食べよう。食べすぎ、飲みすぎは胃酸の逆流に結びつく。
2、脂肪分は摂りすぎないようにする。脂肪の多い食事は胃もたれに結びつき、逆流を起こしやすくする。
3、お酒やタバコは控えめにしよう。お酒は食道と胃の間にある噴門(ふんもん)をゆるめるので、逆流が起きやすくなる。また、タバコは、食事の流れをよくする唾液の分泌を減らしてしまう。
4 、食べてすぐに横にならない。胃酸が逆流しやすい。
5 、胸やけを起こしやすい食品、食材を食べすぎないようにする。脂肪分のほかに、タマネギ、かぼちゃ、さつまいも、トマト、柑橘類、チョコレートケーキ、甘い和菓子、炭酸飲料、コーヒー、アルコール、強い香辛料など。