藤本准教授の話。
「まるで隣組の発想です。これでは誰か一人が騒ぐだけで過剰な自主規制や“悪書狩り”に発展しかねない」
振り返ってみれば、漫画やアニメに限らず、映画などでも「エロ」と類される分野から多数の若い才能が生まれてきた。小説など活字分野でもモラリストが眉をひそめるような作品で注目を集め、才能を開花させた作家は多い。実際に被害児童が発生する児童ポルノは論外であるし、仮に性的な表現物の頒布に一定のゾーニングが必要だとしても、それは徹底して謙抑的で、慎重な姿勢が必要なはずだ。
社会性の強い漫画でも評価の高い漫画家・山本直樹氏は、性描写を含む作品が都から「不健全図書」に指定され、回収騒ぎとなった経験を持つ。その山本氏は今回の動きをこんな風に眺めているという。
「誰かにとっては“クズ”だって、こっちはやむにやまれず描いた表現だったりする。それはお上が区分けすることではないし、面白いものって“端っこ”から出てくると思う。(都知事の)石原さんも、猪瀬さんも、もともとはキワキワのテーマでブレイクしたわけですしね……」
注目を集めた条例改正案は結局、6月16日の都議会本会議で否決された。しかし、それは極めて僅差の採決だった。
賛成は都議会の与党・自民党と公明党で、合計議席数は61。反対の野党・民主党と共産党の合計議席数も61であり、3議席を持つ「生活者ネットワーク」が反対に回ったことによる辛うじての否決だった。その議場では劣勢に立たされた与党席から酷い野次が飛び、改正案への反対討論を行う女性都議に愚劣な罵声が浴びせられる始末だった。
「子どもの敵!」「お前、痴漢されて喜んでるんだろっ!」
少なくとも私の目には、それが「表現の自由」を踏み越えてまで「青少年の健全育成」を目指すに値する姿には見えなかった。しかし、「表現者」でもあるはずの石原慎太郎知事は「目的は間違ってない。何度でもやる」と言い放ち、9月の都議会定例会に改正案を再上程する考えを示している。波紋はまだ収まりそうもない。