「痩せ薬」に起きた3つの大きな進化
【金子】実は、インクレチン関連薬自体は2000年代に登場していました。ただ、当時はそれほど処方が進んでおらず、2020年ごろから今日にかけて大きく進化してきました。
その進化は、大きく分けて「使いやすさ」と「効果の強さ」、そして「対象となる疾患の拡大」という3つがあります。
ひとつ目の使いやすさについては、2000年代に出てきたかつてのインクレチン関連薬は、毎日注射が必要でした。それが改良によって週1回の注射で済むようになり、最近では1日1回の飲み薬も登場しています。こうして患者さんがこの薬剤を続けやすくなったところに、大きなブレイクスルーがありました。
2つ目の効果の強さについては、GLP-1と呼ばれるホルモンだけでなく、代謝に関わる別のホルモンの仕組みも組み合わせる方向に進化しています。これによって、より大きな減量効果や、幅広い代謝改善効果が得られるようになってきています。
3つ目は対象となる疾患の拡大です。おそらく、医療関係者が最も注目しているポイントがここではないかと見ています。大きな転機となったのは、2023年に結果が公表された大規模な臨床試験「SELECT試験」です。
アメリカでは使用者数が1000万人に
【金子】この試験では、心血管疾患の既往がある肥満または過体重の成人を対象にインクレチン関連薬の効果を調べたところ、主要心血管イベントのリスクが20%も低下するという、体重減少にとどまらない効果が示されました。
その後も研究が続き、今では睡眠時無呼吸症候群や慢性腎臓病のようなさまざまな疾患でこの薬の効果が検証され、承認される領域も広がってきています。
背景として、肥満はそれ自体がひとつの疾患や状態であるだけでなく、肥満であることそのものが糖尿病など多くの健康問題と結びついていることがわかっています。そのため、肥満に関連する複数の疾患で有効性が確認されると、ひとつの薬を使用できる患者数が段階的に増えていきます。
以上の3つが、インクレチン関連薬が最近急激に広がっている大きな要因だと見ています。
――世界的にも爆発的に伸びているのでしょうか。
【金子】薬剤の売り上げとして見ると、非常に速いスピード、爆発的と言ってよいと思います。
特に肥満の患者が多いアメリカでは、インクレチン関連薬の使用者数が2023年の500万人ほどから、2025年にはわずか2年で約1000万人へと倍増したと推計されています。
将来的には、2030年には約2500万人が使用するのではないかという予測もあります。別の調査では、現在アメリカの成人の8人に1人に使用経験があるという報告もあるなど、アメリカでは一般的と言っていいほどまでにこの薬が広がっていると言えます。

