「総合的に勘案」では説明不足だが…

学者として超一流なのだから、総長に祭り上げて周辺に実務家を固めればいいじゃないか、という話にもなりやすいのですが、染谷さんの場合は、本人の非違というより、代表理事を務めた組織で長年の不正が続いていたというガバナンス上の問題が、選考で重く見られたのではないかと思われます。

前回2020年の総長選考では、大本命の1人とされた特別栄誉教授の宮園浩平さんでさえ、選考の場で匿名の文書まで取り沙汰されるなかで最終候補に残れなかったと報じられました。個人的には、宮園さんはかわいそうだと思いました。ただ、選考会議においてあのレベルの潔白性が必要だとすれば、そりゃ染谷さんに総長なんてダメだろうという話になります。

そして、前述しましたように、一連の流れについて、選考会議で「すべての議論を透明化せよ」と部外者が騒ぐのもどうなのかと思うわけです。

重要なことなので繰り返しますが、皆さんがお勤めの会社では、取締役会や指名委員会が社長を選ぶにあたり、検討するすべての事項を全社員や取引先、マスコミからSNSにいる人たちにまで公開して選考しますか、って話です。こりゃまあ大変ですね。

もちろん、ガバナンス・コードは選考の過程と理由をできるかぎり具体的に公表するよう求めていますから、「総合的に勘案した」の一点張りでは説明不足との批判は免れません。一定の、納得のいく説明は必要になるでしょう。しかし、本当に説明していいんでしょうか。候補者の周辺で何が起きていたかまで洗いざらい表に出せというのは、さすがに筋が違います。

政府の方針とは「真逆」の藤垣氏

で、じゃあ藤垣裕子さんでいいのかという話になります。

藤垣さんとは、私も日本原子力学会誌などでご一緒しています。基本的にはラディカルな科学技術社会論(STS)方面の研究者であって、権力批判もなさいますし、科学コミュニティにおいては長年、反原発や核兵器廃絶に向けて活動を続けてこられた人物です。

ところが、これから東京大学が向かう先は真逆です。政府は今年3月に閣議決定した第7期科学技術・イノベーション基本計画で、デュアルユース(軍民両用)技術の研究開発を推し進め、科学技術と国家安全保障を結びつける方針を柱の一つに据えました。英俊の集まる東京大学が、国と一緒になって、国益を達成するため民生と軍事の両方に使える技術の研究をおっぱじめることになるのは時間の問題です。

その大学に、反原発や核兵器廃絶という素敵なメッセージ性を掲げてがんばってこられた女性がトップとして来るとなりますと、原子力関係を筆頭に、人工知能や航空宇宙、素材関連ほか、あらゆる分野で東京大学の研究室にお金が落ちなくなるか、藤垣さんの担務は東京大学を分割した「東京駒場大学」のところだけやってください、という話になってしまいます。