問われるのは「経営できるかどうか」
いまの国立大学法人ガバナンス・コードも、学長選考・監察会議は意向投票によることなく、自らの権限と責任で選べと思い切り書いてあります。京都大学にいたっては意向投票第3位の立川康人さんを総長に選出しています。投票はあくまで参考資料であって、東京大学もそれを前提に今回の選考を設計していたことになります。
平たく言えば、会社勤めの読者の皆さまが、代表取締役の任期が終了する際に社員や取引先みんなで投票して社長を選びますか? って話です。会社の中で人望があるとか、どんな実績があるかというのは斟酌しつつも、社内から社長を選ぶのなら「経営できるかどうか」で決めるのは当然です。
なので、そもそも教員や事務幹部を集めてきて「誰がいいですか」って尋ねること自体が大学の経営を担う総長・学長選抜において不適切だからということで、国立大学法人化の際に「民主的に投票することは参考程度にしろ(=やめろ)」となっていたわけです。
例えば、今回工学系から最終選考まで残った染谷隆夫さんは、確かに次点の藤垣裕子さんにダブルスコアとなる1107票を集めています。
しかしながら、そもそも東京大学において工学部は教員の数が激烈に多く、投票数で見れば超有利です。頭数で民主的に決めるとなれば、関係する人数がべらぼうに多い工学部が強いに決まっていますし、附属病院を抱えて教員の多い医学部も強いに決まっています。
全票数の2~3割を占める工学系
2020年の選考は、生研の所長を務めた藤井輝夫さん(選抜され、総長に就任した)と、工学系研究科長だった染谷さんという工学系同士の争いでした。結果は藤井さん951票、染谷さん635票です。今回2026年の第2次候補5人のうち、工学系は染谷さん1人でした(大越慎一さんは前理学部長、菅野暁さんは財務担当の理事)。
「前回は工学系同士で票が割れたが、今回は工学系の票が染谷さん1人に集まり得た」ので、次点の藤垣裕子さんの倍の得票を得たと言えます。それでも、本来なら1300票ぐらい獲れたんじゃないのという気もします。
実際、工学系研究科に生産技術研究所、情報理工学系研究科、先端科学技術研究センターといった工学系の部局を合わせると、意向投票に参加できる教員だけでおよそ570人、これに各部局の部長級・課長級の職員を加えればおよそ585人となり、有資格者2583人の2割強を占めます。法学政治学研究科の90人弱と比べれば6倍以上で、柏の新領域創成科学研究科まで含めれば730人から745人ほどになり、全票数の3割近くに達します。
どこまで投票権が付与されているのかの正確な数や、本当に染谷隆夫さんに投票したかは判然としませんが、単純投票の票数であれば工学部系が有利であることは間違いありません。過去の投票経緯からすれば、藤垣裕子さんとの間でもっと票差が開いていてもおかしくなかったはずです。

