「人命価値の低さ」がプーチンの戦争を支えるという皮肉
従って、ロシア軍の継戦「能力」に疑義を呈する情報に接した場合も、これをもってロシアの継戦「意欲」も尽きつつあると安易に希望的観測を述べるのは慎まねばならない。先に述べたように、2022年の動員令を宙ぶらりんにしつつ、契約兵をⅢ群に取り込む規定を健康診断基準に新設し、このIII群を狙って軍務適格性を全面的に緩和することで、生活習慣病をはじめ、ありとあらゆる病人を半自動でロシア軍に流し込む仕組みが完成した。この悪賢い手口を思い付いた御仁は、なかなか侮りがたい相手ではなかろうか。
プーチン大統領は、9月にウラジオストクで開催された第11回東方経済フォーラムで、再動員の憶測を「下院選を前に、選挙結果に影響を及ぼそうとの企みを伴う攻撃であり、思い付きの情報戦に過ぎない」と一蹴したうえで、「ウクライナとは違い、ロシア人は周知のとおり自らの意思で入隊契約に署名しており(中略)兵員数の観点からは、我々には現在いかなる問題もない」と述べている。この発言も、当面は徴兵に舵を切らず、欺瞞・脅迫など事実上の強制を含む契約兵のさらなる募集強化で戦力の底上げが可能、との自信の表れと言える。
巷間目にする論説の多くは、この自信の根源を、政府による言論統制・弾圧や、都市と農村の生活格差を利用した分断、貧困地域の住民に高給と引き換えに入隊を誘ういわゆる「経済的徴兵」の成功などに求めている。確かにそれぞれ一理あるが、これも結局のところ、ロシアではわれわれ日本人が思う以上に人命の価値が低い、との一点に収斂するのではないか。この国の宿痾は、権力者のみならず、ロシア人自身までもが生命の軽さを運命的に捉えているところにあるのかもしれない。
いずれにせよ、わが国とそう人口規模が違わないロシアが、自衛隊丸ごと以上の戦死者を出したのでは、じきに音を上げるはずだと早合点する「ミラー・イメージング」に陥ってはならない。むしろ「ロシアはまだまだ戦争を続ける気だ」との前提で、今後の対応策を考えるべきであろう。
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