そもそも危険水準20%からのスタートだった
まず、25年から26年にかけての冬は、春先まで厳しい寒さが続き、ガスはほぼ使い果たされていた。そのため今年のガスの充填は、貯蔵率20%という危険水準に近いスタート地点から始まった。
ガスは、掘削、採掘、冷蔵タンク設備、輸送と、巨大な投資が必要なので、通常15年、20年という長期契約で売買される。日本、中国、韓国といったガスを持たないアジア勢は皆、アラブ諸国と長期で取引をしていたため、ウクライナ情勢が不穏になっても供給は保証され、国内のガスの価格変動も比較的穏やかだった。
ところが、ドイツはこれまで安いロシアガスの上に胡座をかいていたので、長期契約とは無縁。ガスの受け入れターミナルさえ、1基も持っていなかったぐらいだ。
ただ、ロシアのガスが無くなってしまったため、ハーベック経済相は急いでカタールに出向き、「ガスはCO2を出すので、我が国では再エネ100%になるまでの繋ぎである。よって、数年分だけ買いたい」と言って、門前払いを食らった。それでもドイツ政府は2045年までの脱炭素という目標に拘り、結局、長期契約に踏み切れず、大部分のガスをスポット市場、あるいはコスパの悪い短期契約で調達することになった。
ピーク時には平時の20倍に…
スポット市場では、長期契約でガスを調達している国も、その時々の需給調整のために、常時、取引をしている。取引はもちろん時価だ。そのスポット価格が、ウクライナ紛争が始まって歴史的とも言える大暴騰をした。
ピークは2022年8月で、長期契約を持たず、丸腰でスポット市場に晒されたドイツは、やむをえず高いガスを買い続け、卸売り価格は一時、通常の20倍にもなった。
その後、一旦は落ち着いた市場だが、新たにホルムズ海峡の混乱によって、現在、わずかなガスを世界中で奪い合う状態となっている。当然、価格は再び高騰している。
ただ、ガスは産業の要で、アジア諸国の備蓄は、前述のようにたったの2週間。だから、日本も韓国も、どうしてもガスが必要となると、スポット価格がどんなに釣り上がっても必死で買いに走る。
スポット市場で取引されるガスは、当然のことながら、一番高い値段をつけた買い手のところへ向かう。そうなると、備蓄のために買おうと思っているドイツは必死さが違う上、資金力も足りず、どうしてもアジア勢に競り負ける。その結果、タンカーは皆、ドイツではなく、アジア方面に向かうことになった。
今ではドイツも流石に根を上げ、カタールとの15年契約によるガスの輸入が、今年より開始した。米国やカナダなどとも、20年契約を結んだ。
ただ、国内向けのアナウンスは、未だに「目標・2045年の脱炭素」のままだ。多くの国民は、自国のエネルギー政策が大混乱している本当の理由をよく知らない。政府は全て、プーチン大統領やイランのせいにしている。
