周りに振りまわされるのは、自信がないから。自信がないのは、心が乱れているから。禅僧の修行は、心を整えるテクニックの宝庫だ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。
地域コミュニティが希薄になり、都市部では近所づきあいも少なくなりました。お互いをよく知らないから、誤解も生じやすいのです。
昔はご近所さんといえば、どこの家も似たような境遇で、暮らしぶりもほとんど同じでした。地域に関連した共通の話題も多く、ごく自然に近所づきあいができていたのです。
いまは同じ地域に住んでいても、仕事はさまざまで、経済力や生活のリズムも違います。マンションで同じ階に住む人の顔を見たことがないという話も珍しくありません。それでも同じゴミ収集所を利用し、防犯防災に努めなければならない。近くに住むだけで無関係ではいられないのです。
生活の価値観が根本的に異なり、共通の話題が見つからなければ、スポーツや趣味といった別の切り口で、結びつきを強めることも一つの方法でしょう。もしかしたら、そこからお互いの理解が深まるかもしれません。
人間関係を築いたうえで、なおも悪口を言われるなら、こちらに何か落ち度はなかったかと振り返ることも大切です。他人に嫌われやすい人は、自分ばかりを主張し、思い通りにならないと不平不満をぶつける傾向があります。
私たちは本来、清らかで汚れのない心を持っています。しかし、いつの間にか「あれが欲しい」「これを手に入れたい」という執着や、「自分が、自分が」といった我欲で心を覆ってしまいます。禅では「我見(がけん)」と呼びますが、心にそういう垢が溜まっているのです。
みんなを受け入れてはじめて、みんなから受け入れられる。自分より他人のことを考え、ともに支え合おうとする姿勢は、執着や我欲から離れたところにあります。
日本人はもともと協調性に富み、チームワークが優れています。ビジネスでもスポーツでも、世界の舞台に出れば団体戦に強いことがよくわかります。チームワークを支えるのは、我見を離れた心なのです。
人間関係につまずいたら、すぐに相手のせいにしてはいけません。自らを省みることが大切です。
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。