脳は「座ること」を強烈なご褒美だと認識している
「進化の話はわかったけど、現代では食べ物に困らないじゃないか」
そう思うかもしれません。しかし、問題は私たちの「脳」がまだ旧石器時代のままだということです。
2020年代に入って注目されている最新の神経科学理論「運動最小化理論」は、興味深い事実を明らかにしました。
それは、私たちの脳は「座ること」そのものを報酬として処理しているという事実です。
脳波(EEG)を使った研究では、人間が「座っている画像(楽な状態)」から逃れようとするとき、脳は「動いている画像」から逃れるときよりも、はるかに多くのエネルギー(皮質リソース)を消費することが確認されました。
これは何を意味するのでしょうか。
あなたの脳内では、常に「動くな! 座れ! エネルギーを保存しろ!」という強烈な命令信号が出続けているのです。
ジムに行こうとするとき、あなたが感じている億劫さの正体は、この脳の原始的な命令信号に逆らうために発生している、脳内での激しい葛藤による綱引きの負荷そのものです。
「ソファの引力」は単なる比喩ではありません。脳の電気信号レベルで発生している、物理的な引力なのです。
現代は「アクセル(生存の危機)」が壊れた車
かつては、この「動きたくない脳」を持っていても問題ありませんでした。
なぜなら、「獲物を追わなければ餓死する」「逃げなければ食べられる」という強烈な生存危機が、強制的に身体を動かすアクセルになっていたからです。
しかし現代はどうでしょうか。
指先ひとつで高カロリーな食事が届き、デスクに座ったまま仕事ができ、猛獣に襲われることもありません。
「動きたくない」という強力な本能はそのままに、「動かなきゃ死ぬ」という環境だけが消滅してしまった。
これが、現代人が直面している運動不足の正体です。私たちは、ブレーキを踏みっぱなしで、アクセルがない車で前に進もうとしているようなものです。これでは、どんなに気合を入れても前に進むはずがありません。
ここまでの話で、重要なことがわかりました。
あなたが筋トレをサボってしまうのは、性格のせいではありません。数百万年かけて培われた「強力な本能」と、現代の「快適すぎる環境」のミスマッチが原因です。
この圧倒的に不利な戦いに、気合や根性で挑んでも勝てるはずがありません。そんなことをすれば、脳の防衛本能にあっけなく返り討ちに遭い、ジムに1年間通い続ける4%の生存者に入ることは不可能です。
本能に逆らうには、気合ではなく、脳の仕組みをハックする「筋トレを続ける技術」が必要です。

