ハーバード大学の教え子に、キャリアと配偶者のマッチングに関する問題を研究している女子学生がいる。彼女が言うには、夫婦そろって責任が重く、時間的に融通の利かない仕事をしながら子供を育てるのは至難の業だ。

たとえば、大手法律事務所のパートナーや大企業の最高経営責任者(CEO)は、専業主婦や非常にフレキシブルな仕事に就いている相手を選びがちだ。

とはいえ、女性が、弁護士など、ハイレベルな仕事の担い手として労働市場に参入し始めたことで、「職のリデザイン(再設計)」が起こっている。以前の米国ではパートナーにならなければ、弁護士として高給を稼げなかった。しかし、今では「カウンセラー(顧問)」と呼ばれる弁護士が増え、フレキシブルな勤務時間で働きながら、高給も取っている。

医学界でも、似たような状況が見られる。夫婦の一方が、独自の患者をもたない「ホスピタリスト(総合医)」として、所定労働時間だけ働き、子供を育てるというケースだ。1900年当時の米国では、医学部には女性などほとんどいなかったが、70年前後には10%に達し、現在では約半数を占める。

労働市場と結婚市場は、相互作用の関係にある。一昔前なら息子が弁護士になれば、弁護士でない女性と結婚し、妻が家庭に入って子育てをしただろう。だが、今は違う。あなたの息子がロースクールの首席だとすれば、やはり優秀なロースクールの女子学生との結婚を望むかもしれない。

男性も、魅力的な結婚相手を見つけたかったら、料理など、妻の手助けができるように訓練する必要がある。家事は、2人で分担すべきものだ。すでに結婚している共働き家庭の男性にとっても、妻の手助けは必須要件。さもなくば、結婚生活は長続きしないと覚悟しよう。

経済学者 アルビン・ロス
1951年生まれ。スタンフォード大学教授。74年、スタンフォード大学よりオペレーションズ・リサーチのPh.Dを得る。2012年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授のロイド・シャープレー氏とともにマッチング理論を応用した「安定配分理論と市場設計の実践」の功績からノーベル経済学賞を受賞。
(肥田美佐子=構成 Linda A. Cicero/Stanford、飯田安国=撮影)
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