もともとマッチング理論は、結婚よりも、高校生の大学選定や、就職活動中の人の仕事探しなど、労働市場での最適な組み合わせを探すために生まれたものだ。
言うまでもないが、結婚には、単純なモデルでは説明しきれない多くの要因が絡んでくる。私の研究は結婚にフォーカスしているわけではないが、共働きを希望する教え子の新婚カップルの就職を助けることも多い。
教え子には、いつもこう説くようにしている。長続きする結婚の鉄則は、配偶者より幸せになってはいけないことだ、とね。片方だけがいい仕事に就いても、うまくいかない。
そうした意味で、1970年代に行われていた研修医と病院のマッチング方法は間違っていた。当時は、医師が既婚の研修医カップルの病院選びに手を貸すに当たって、夫婦のいずれかを主要メンバーとし、まずは、各カップルの主要メンバーたちに希望を出させ、就職先をマッチングした。そして、もう片方が、主要メンバーである配偶者の研修先と同じ都市で仕事を探す、という仕組みである。
だが、この方法だと、たとえば2人がボストンでいい研修先に就きたいと思っている場合、問題が生じる。1人が当地で魅力的な研修先をマッチングしてもらえても、もう1人が気にそわない勤務先しか見つけられなければ、2人が幸せにはなれないからだ。それなら、いっそのこと第2希望の都市で、夫婦そろって、いい勤務先を見つけるほうがいい。
2人ともが幸せになれなければ、離婚する可能性が高くなるかもしれない。結婚生活を守るために、どちらかが今の仕事に「別れ」を告げ、転職するという選択肢もあるだろう。