ネガティブな感情は乗り越えられる
チームを組んで仕事をする場合、メンバーが気の合う人ばかりとは限りません。性格的に苦手なタイプや、過去に衝突や軋轢があった相手と働かなくてはいけないこともあるでしょう。だからといってネガティブな感情を抱えたままでは、自分自身がストレスを抱えてつらい思いをします。
一方で、一緒に仕事をするうちに、相手への評価が変わることもあります。「気が合うタイプではないが、仕事には誠実に取り組むんだな」といった別の顔が見えてきて、いつの間にか相手との距離が近づいていく。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
菊池寛の代表作の一つである『恩讐の彼方に』は、江戸時代を舞台に、恨みや憎しみという負の感情を乗り越えた先にあるものを描いた短編小説です。
武家に仕える市九郎は、主人の妾と関係を持ったことがばれて、激昂した主人に斬りつけられます。とっさに反撃した市九郎は、逆に相手を斬り殺してしまい、主君殺しの大罪を負って江戸を出奔します。主人の息子である実之助は、父の仇を討つため、市九郎を探して各地を訪ね歩きます。長い月日を経てようやく見つけた市九郎は、了海と名乗る老僧になっていました。
「了海とやら、如何に僧形に身を窶すとも、よも忘れは致すまい。(中略)もはや、逃れぬところと、覚悟せよ」
かつての主君の息子が仇討ちに来たと告げても、市九郎は少しも驚きませんでした。
「いざお斬りなされい」
そう言って、抗うことなく死を受け入れようとします。
市九郎がこのような態度をとったのは、もはや思い残すことはなかったからでした。実之助が現れる前の彼が何をしていたかというと、19年もの間、トンネルを掘り続けていたのです。
自分の罪を悔いて出家し、償いの旅に出た市九郎は、豊前の国の川沿いで難所に行き当たります。絶壁に架かる不安定な橋を渡りきれず、多くの人が命を落としていると知った彼は、山を掘って人々が安全に通れる道を開通させようと決意します。
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