「LINEグループに入ってください」
「先生、今日のうちに、じゃなくて、今すぐですよ。今すぐ相手の子たちを呼んでください。誰が書いたのか全部調べてください。保護者も呼んでください。きちんと謝罪させてください。こういうの、放っておくからどんどんひどくなるんでしょう?」
G先生は、そこで強く否定できなかった。
起きたのは夜の家庭の中、私物のスマホの中だ。けれど相手は同じクラスの生徒たちで、朝になればその関係はそのまま教室に流れ込んでくる。学校と無関係です、と言い切るにはあまりにも近い。
「わかりました。まずは、お子さんの登校は無理をさせず、ご家庭で休ませていただいて大丈夫です。そのうえで、こちらで関係する生徒たちから話を聞きます」
すると母親は、たたみかけるように言った。
「話を聞くだけじゃ困ります。誰が何を書いたか、全部はっきりさせてください。あいまいにしないでください。あと、こういうことが二度と起きないように、先生もそのLINEグループに入ってくださいよ」
G先生は一瞬、言葉を失った。
「……LINEグループに、ですか」
「そうです。先生が入って見ていれば、こんなことにならないでしょう? なんで入ってないんですか? クラスのことなんだから、担任が把握して管理するのが当たり前じゃないですか」
受話器を持つ手に、少し汗がにじんだ。
見えない場所まで責任を問われる
その要求は、保護者の立場からすればもっともらしく響くのかもしれない。だが、学校では以前から、生徒と教師が私的なSNSでつながることは禁止されていた。
個人情報の問題もあるし、連絡の記録が残りにくい。なにより、教師が生徒と個人的に連絡を取れる状態そのものが、別の誤解やトラブルの火種になりかねなかった。
「お気持ちはわかるのですが、教師が生徒のLINEグループに入ることは、学校として認められていないんです」
「なんでですか!」
「個人情報の管理の問題もありますし、生徒との私的な連絡手段を持たないというのが、学校の基本的なルールなんです」
「でも、そのせいで見られないんでしょう? だったら学校は何もできないじゃないですか! 都合のいいときだけ“学校の指導です”って言って、都合が悪くなると“家庭のことです”って逃げるんですか!」
その言葉はきつかった。だが、今は言い返す場面ではないとG先生は思った。
「何もできない、ということではありません。ただ、できることと、できないことがありまして……」
母親はほとんど叫ぶように言った。
「そんなきれいごとで済まないんです! うちの子は今日、布団から出られないんですよ! 学校で同じクラスに入れておいて、夜はスマホの中で追い詰められて、それで学校は見えません、知りません、じゃ済まないでしょう!」
その一言だけは、G先生の胸に重く残った。
